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(ひっ!嘘でしょ?もう事務所にまで…)
明け方にそっとアートプラネッツのオフィスを抜け出した瞳子は、タクシーでひとまず事務所に向かった。
千秋に詳しく事情を話して、今後のことや当面の仕事についても相談させてもらわなければならない。
少し離れた場所でタクシーを降り、角を曲がる前にそっと顔を覗かせると、500m程先の事務所があるビルの入り口に、早くも5人のマスコミが待ち伏せているのが見えた。
瞳子はしばし思案してからもう一つ先の角を曲がり、ビルの裏口へ回った。
常駐している顔馴染みの警備員が、瞳子を見て急いで裏口を開ける。
「間宮さん!良かった。さっきから正面入り口にマスコミが来てて、間宮さんのこと、あれこれ聞いてくるんだよ。いったいどうしたの?」
「すみません、ご迷惑をおかけして。あの、今後もまだ大勢来るかもしれませんが、よろしくお願いします」
「分かった。ノーコメントってやつだな?任せといて」
「お手数おかけして申し訳ありません。よろしくお願い致します」
何度も頭を下げてから、瞳子はエレベーターホールへは向かわず、入り口から死角になっている階段を上がって3階の事務所に入った。
まだ誰もいないガランとした部屋で、ふうと息をつく。
自分のデスクでぼんやりしていると、いつの間にか外が明るくなっていた。
(6時か…。ひょっとして朝の情報番組でも取り上げられてるのかな?いや、局アナの恋愛なんて、さすがにテレビではやらないか。有名人とは言え、テレビ局の社員だもんね)
そう思いながらテレビのリモコンに手を伸ばす。
スイッチを入れると、いきなりあのツーショット写真が画面に現れた。
(ひえっ!)
『TVジャパン 倉木 友也アナ 熱愛発覚!』
と書かれたテロップも目に飛び込んでくる。
思わず瞳子は、スイッチをオフにした。
シーンと静けさが戻ってきて、瞳子は心拍数の上がった胸を押さえて気持ちを落ち着かせる。
(これからどうなるんだろう。こんなに大きな騒ぎになるなんて…)
それに友也のことも気がかりだ。
自分ですらこんなに周囲が騒がしくなるなら、彼はもっと大変なことになっているだろう。
(どうすればいいの?私が、誤解ですって記者の人達に言うべき?)
あれこれ考えていると、外の様子が一層騒がしくなった。
カーテンの隙間からそっと下を見下ろすと、マスコミは15人程に増えており、その間を縫うように千秋がビルの入り口に向かっているのが見えた。
「千秋さん!」
マスコミに取り囲まれ、もみくちゃにされながら、千秋は「通してくださーい!」と叫んでいる。
瞳子がヤキモキしながら見つめていると、マスコミを振り切った千秋が、ようやく建物の中に入っていくのが見えた。
瞳子は急いで事務所の入り口で出迎える。
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