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「はい、今はうちの事務所で私と一緒にいるのでご心配なく。そちらの様子はいかがでしょうか?マスコミは来ていませんか?…そうですか、はい」
千秋が大河と電話で話すのを、瞳子はそばでじっと見守る。
「冴島さん、この度は本当にありがとうございました。助かりました。…そうですね、今後についてはまだ…。かしこまりした。またご連絡差し上げます。はい、それでは失礼致します」
受話器を置いて、ふうとため息をつく千秋に、瞳子はすぐさま「どうでしたか?」と尋ねる。
「あちらのオフィスには、まだマスコミは来ていないそうよ。今後の瞳子の居場所については、冴島さんも今、あちこち検討してくださっていて…」
そこまで話した時、ふいに事務所の電話が鳴る。
営業時間にはまだ随分早かった。
冴島さんかしら?と言いながら、千秋が受話器を上げる。
「はい、オフィス フォーシーズンズでございます。…え?はい?あの、どちら様でしょうか?」
怪訝な面持ちになる千秋に、瞳子は心配になる。
(もしかして、マスコミ?)
どうやらそうらしく、千秋は、
「お話出来ることは何もございませんので、失礼致します」
と言って電話を切った。
だがすぐまたコール音が鳴る。
「あーらら。これは絶対ジャンジャンバリバリ、マスコミからよね」
そう言って千秋はコンセントを引っこ抜く。
「ち、千秋さん?!」
「あー、静かになった。瞳子、うちのメンバーに一斉メールしてくれる?事務所の電話は使えないから、何かあったら私の仕事スマホにかけるようにって。取り引き先の担当者には、私からメールを送るから」
「は、はい!かしこまりました」
瞳子は急いでデスクに着く。
メーリングリストを開いて、カタカタと文章を入力すると、登録メンバー全員に一斉送信した。
「さてと!じゃあまずはコーヒーでも飲んでくつろぎましょうか」
ひと通り連絡を終えた千秋が、立ち上がって明るく笑う。
「あ、私が淹れます。座っててください」
「あら、ありがと」
瞳子は電気ケトルのスイッチを入れ、千秋のマグカップにドリップコーヒーを淹れた。
「瞳子も飲みなさいね」
「あ、はい」
瞳子は自分のマグカップにもコーヒーを注ぐと、千秋が座っているソファに運ぶ。
「どうぞ」
「ありがとう。瞳子、朝ごはんは食べたの?」
「え?いえ、まだ」
食事のことなど、頭の片隅にもなかった。
「ダメよ、ちゃんと食べなきゃ。コンビニで色々買ってきたの。食べましょ!」
千秋はエコバッグから次々とサンドイッチやサラダ、ヨーグルトを並べていく。
勧められて遠慮がちに口にした瞳子は、美味しさと千秋の優しさにホッとした。
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