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「大河さん!こっちです」
ん、と小さく頷いて、大河が事務所に入って来る。
瞳子はすぐさまドアを閉めた。
「ふう、やれやれ。おっさん達、ボディタッチが激し過ぎ。Tシャツの首が伸びるっつーの」
羽織っていたシャツを整えながら愚痴をこぼす大河に、千秋が近づく。
「冴島さん、どうしてここに?」
「その前に千秋さん。さては電話線引っこ抜いただろ?」
「え?よく分かったわね。そうなのよ、あはは!」
「あははじゃないってば。何回かけても電話出ないし、伝書鳩でも飛ばそうかと思ったよ」
「あら、いいわね!クルックーって?」
「何?クルックって」
「だから、鳩の鳴き声。クルックーって鳴くでしょ?」
「え、ポッポッポーじゃないの?」
「それは歌の歌詞でしょ?」
「知らないっつーの!それよりスマホの番号!とにかくまずはそれを教えて」
大河はポケットからスマートフォンを取り出し、千秋と連絡先を交換する。
その流れで、夕べ結局うやむやになっていた瞳子とも、メッセージアプリを登録し合った。
「よし、これで鳩は飛ばさずに済む。それで?これからどこに行くか決まったの?」
大河に聞かれて瞳子は目を伏せた。
「いえ、それがまだ…」
「そうか。それならうちのオフィスにしばらくいるといい。俺達ヤローが4人もいるし、何かあっても君を守れる。広くないけどシャワー付きの仮眠室もあるよ。食料の買い出しも代わりに行けるし、どうしても外出する時は、ガレージから車に乗って出ればいい」
「ええ?でもそんな、そちらにご迷惑になるだけでは…」
「じゃあ他に行くアテはあるの?」
「それは、その…」
「実は本音を言うと君に来て欲しい。アートプラネッツの作品に、女性の観点で意見を聞いてみたいと常々思ってたんだ。けど、女性スタッフを雇うと色恋沙汰が面倒くさくてさ。どう?しばらくうちの仕事、手伝ってくれない?」
は?と、思わぬ話の展開に瞳子は目をしばたかせる。
「いいじゃない!瞳子、そうさせてもらったら?」
「いえ、あの…。私なんかがお手伝い出来ることなんて」
千秋に顔を覗き込まれても、瞳子は頷けない。
「迷ってる暇はない。あとになればなる程マスコミが増えて、ここから身動き取れなくなる。千秋さんと二人で缶詰めにされるぞ?それに何もしないと気が滅入るだけだ。どうせしばらくは司会の仕事も出来ないんだろ?だったらこっちを手伝ってくれ。そうすれば俺達にとっても、君は迷惑でも何でもない。大歓迎だ」
瞳子がおずおずと視線を上げると、大河は大きく頷いてみせた。
その表情に瞳子はホッと安心し、守られているような心強さを感じた。
「瞳子、ね?そうさせてもらいなさいよ」
千秋の言葉に、瞳子はゆっくりと頷く。
「はい。お願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。そうと決まればすぐに行こう」
「え、でも…。行くってどうやって?」
裏口からこっそり出るのだろうか?
だがもしマスコミに見つかったら、それこそアートプラネッツまで尾行されかねない。
それに裏口にも、既に誰かが張っている可能性が高い。
瞳子が再び肩を落とすと、大河はニヤリと笑ってみせた。
「もちろん、正面から堂々と出て行くよ」
え?と、瞳子は千秋と顔を見合わせて首をひねった。
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