アリシア

5/7

6168人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
やがて透がぽつりと呟いた。 「瞳子ちゃん、倉木アナとどういう関係なんだろう」 大河はゆっくりと口を開く。 「彼女は、記事の内容は事実無根だと言っていた。倉木アナの恋人ではないと」 「だけど、それならどうしてレセプションパーティーを二人で抜けたの?外のベンチに二人並んで、何を話してたの?倉木アナは瞳子ちゃんに自分のジャケットまで貸してさ。この記事がここまで騒がれるのは、みんなそれが気になってるからだと思う」 重苦しい沈黙が広がる。 今まで黙っていた吾郎が、低い声で話し始めた。 「瞳子ちゃんが倉木アナと以前から知り合いだったのか、もしくはあの日に知り合って意気投合したのか。どちらにせよ、ジャケットを彼女に掛けた倉木アナは、瞳子ちゃんに好意を寄せているように見えるな。この騒動は、倉木アナが何らかのコメントを出すまでくすぶりそうだ」 「そしたら瞳子ちゃんは、それまでずっとマスコミに追いかけられるってことか?たまったもんじゃないな」 そう言うと透はソファにもたれてため息をつく。 「倉木アナがコメントを出すとしたら…。SNSに倉木アナのアカウントあるか?」 洋平の言葉に、皆は一斉にスマートフォンを取り出した。 「あ、1個あるね。うわっ!炎上してる」 皆も同じ画面を見て顔をしかめる。 倉木の最後の投稿は、アートプラネッツのミュージアム、プレオープンイベントの様子を書いたものだった。 『今までにない、新たな世界が体験出来る素晴らしいミュージアム!見て、触れて、感じて、子ども達も大いに楽しんでいます』 その記事に、矢継ぎ早に書き込まれるコメント。 『倉木さんよー、このあと彼女とよろしくしちゃったんですかー?』 『仕事で行ったの?それともデート?』 『見て、触れて、感じてってwww』 『何やってたんですか?やらしー』 『あーらら。爽やかなイケメンアナがこんなふしだらな穴だったなんてね』 それ以上読むのは耐えられず、4人は画面を閉じた。 「くそっ!酷いこと書きやがって」 「誹謗中傷ってやつだな。匿名で書かずに、顔見せて名前名乗って堂々と言ってみろ!ってんだ」 「倉木アナがお前に何かしたのかよ?単なるストレス発散に軽々しく人を傷つけておいて、しれっとしてる。許せんな」 忌々しそうに言う3人に、大河は黙って考え込む。 「それで大河。これからどうするつもりだ?」 3人に注目されて、大河はおもむろに顔を上げた。 「今はとにかく彼女を守る。マスコミの接触だけでなく、心無いコメントからもな。ニュースやネットも、なるべく彼女の目には触れないようにしてくれ。それから夜は交代でここに泊まって欲しい。彼女のそばには、いつも誰かがいた方がいいと思う。それと食事の買い出しも頼む」 分かった、と3人は頷く。 「あとは倉木アナがどう出るか、だな。彼女に連絡してくるかもしれないし。二人がどういう関係か分からないから、気にかけておくしか出来ないが」 「そうだな。とにかく瞳子ちゃんが心穏やかに過ごせるようにしてあげよう」 ああ、と皆は頷き合った。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6168人が本棚に入れています
本棚に追加