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「ごめんなさい!私ったらうっかり寝ちゃって…」
午後3時を過ぎた頃、瞳子が隣の部屋から慌てて駆け込んで来た。
「大丈夫だよ、よく眠れ…」
壁際のカウンターでコーヒーを淹れていた透が顔を上げ、瞳子の姿を見て絶句する。
寝起きで急いでいたのか、カットソーの胸元が乱れて谷間が見え、カーディガンも前がはだけている。
足元もヒールが高いパンプスの為、透よりも瞳子の方が背が高くなり、すぐ目の前に胸の谷間が迫っていた。
ガタッと後ずさった透は、カウンターに背中をぶつけてコーヒーをこぼしそうになる。
「わっ、熱っ!」
跳ねたコーヒーが手にかかり、思わず透は顔をしかめた。
「大変!透さん、すぐに冷やさないと」
瞳子はカップを奪うと透の手を握り、シンクの水を流した。
「この辺ですか?」
「え、あ、うん」
流水に手を晒して冷たいはずなのに、透は身体が熱くなる。
少し身を屈めている瞳子の胸元が、大変なことになっていた。
(やばい、見える。見えそうで見えない。もう少しで見えそう。いや、見るなよ。見てはいけない)
『見る』の色んなバリエーションが頭の中を駆け巡る。
「透さん、もう熱くないですか?」
「いや、かなり熱い」
「え、そんなに?もう少しこのままの方がいいかな…」
「いや、離れたら冷えると思う」
「そうなんですか?」
「うん、ありがとう」
怪訝そうな瞳子に礼を言って、透はその場を離れた。
(はあ、やばかった。今のはマジでやばかった。どうしよう、俺。身が持つかな?いや、瞳子ちゃんだと思うからいけないんだ。彼女は金髪の、そう、アリシアなんだ。そう思えばまだ落ち着ける)
タオルで手を拭きながら、透は心の中でひとりごちた。
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