明けない夜はない

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しばらく沈黙が広がる。 やがてためらいがちに大河が口を開いた。 「倉木アナからは、何か連絡はないの?」 「はい。お互いに連絡先も知りませんし」 「そうなの?じゃあ彼とは、あの日初めて知り合ったってこと?」 瞳子が返事に詰まると、大河はすぐさま謝った。 「ごめん、立ち入ったことを聞いて。答えなくていいよ」 瞳子は少し間を置いてから顔を上げた。 「いえ、お話します。こんなにもご迷惑をおかけしたんですから、きちんと説明させてください」 そう言うと瞳子は、身体を大河の正面に向けた。 「私と倉木さんは、昔おつき合いをしていました。私が大学2年生の頃から1年半程の間です。倉木さんがテレビ局に就職した後、少ししてから別れました。先日のミュージアムのプレオープンの日に、偶然再会したんです。夜のレセプションパーティーで、外国人男性に詰め寄られていたところを助けてもらいました。そして、場所を変えた方がいいと言われて、二人で外に出ました。そこを写真に撮られたようです」 「…そうか」 ぽつりと大河が返事をする。 「大河さん、私はどうするべきでしょうか?彼とは恋人でも何でもないと、マスコミの前で証言すればいいでしょうか?そうすれば、この騒動は落ち着きますか?」 うーん…、と大河は腕を組む。 「それはヘタすると火に油を注ぎかねないな。『彼とは何でもありません!』と訴える君の姿は、まるで彼をかばっているように取り上げられるだろう。写真の中で倉木アナは、君にジャケットを掛けてあげている。しかも外で二人きり。悪いが、何を言っても信憑性がない」 「そんな!事実なのに…」 「今は何もしない方がいいと思う。テレビ局でも対応を検討しているだろうし、そのうち何か発表があるかも…」 そう言いながらスマートフォンで倉木のSNSを確認した大河は、ふと手を止めて画面をじっと見つめる。 「君にメッセージだ」 「え?」 差し出されたスマートフォンを覗き込み、瞳子は目を見開いた。 そこには倉木 友也のコメントが書かれている。 『 関係者各位 この度はわたくしの未熟さ故に、このようにお騒がせ致しましたことを深くお詫び申し上げます。 記事の内容は事実無根でございます。 しかしながら、誤解を招くような写真を撮られたことは、わたくしの不徳の致すところであります。 この件の全ての責任はわたくしにあります。 どうかお相手の方への過度な取材はお控え頂きますよう、勝手ではございますが、何卒よろしくお願い致します。 また、連絡先を存じ上げない為、この場をお借りしてお相手の方へも謝罪させてください。 ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。 一日も早く、皆様の信頼を取り戻すべく精進して参ります。 重ねがさね、この度は誠に申し訳ありませんでした。 倉木 友也 』
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