明けない夜はない

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「やあ、アリシア。今日も気持ちのいい朝だね」 「おはようございます。透さん、今コーヒー淹れますね」 「ありがとう!君の淹れてくれるコーヒーは、特別スイートさ」 瞳子がアートプラネッツでお世話になって5日目を迎えた。 透は相変わらず妙なアメリカンハイスクールドラマの口調だったが、瞳子も皆も慣れてしまい、大して何も思わなくなっていた。 瞳子は毎日、雑用をしたり、意見を求められたりして、皆の仕事を手伝っている。 夜は4人が交代でオフィスのソファに寝泊まりするのだが、透の番になると、なぜだかお前一人はダメだと皆に止められ、大河も一緒に泊まるというおかしなことになっていた。 「アリシア、ちょっといいかい?この動画を観て欲しいんだけど」 「はい、何でしょうか?」 「このアングルとこっちのアングル、君ならどっちが好みだい?」 「そうですね、後者かな?あ、もう少しスローモーションの方が余韻があって素敵かも…」 「なるほど、確かにそうだな。さすがはアリシアだね。良いアドバイスをありがとう!さて、そろそろディナーをオーダーしようか」 土曜日ということもあり、早めに仕事を切り上げて夕食を食べる。 「今夜の君のナイトは俺かな?」 「お前は狼だろ。とっとと帰れ」 キザな仕草の透を、大河はシッシッと追い払うように帰らせた。 洋平と吾郎もあとに続き、2人切りになったオフィスで大河は仕事の残りを、瞳子は食器の片付けをする。 時計を見ると、21時になるところだった。 (確か倉木アナの番組って、土曜日のこの時間だったな) 大河はパソコンをミュートにしたまま、テレビ画面を立ち上げた。 ちょうど番組が始まったところだったが、倉木の姿はなく、神妙な面持ちで女性のアナウンサーが何やら話している。 大河は急いでワイヤレスイヤホンを着けて音声を聞いた。 『…大変お騒がせ致しましたことを、お詫び申し上げます。当面倉木アナウンサーは番組の出演を控えさせて頂き、代わりに増田アナウンサーが…』 えっ!と大河は驚いて、すぐさま番組ホームページをチェックする。 そこには、今までメインMCとして紹介されていた倉木の写真と名前が跡形もなく削除されていた。 (もしや、事実上の降板…) しばし呆然とした後、そっと瞳子に目をやる。 シンクで洗い物をしているその横顔は穏やかで、大河は動揺を悟られないように気を引き締めた。
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