素敵な日

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瞳子の周りを大河達4人が取り囲み、ホテルのロビーに足を踏み入れる。 ザワッとロビーの雰囲気がざわついた。 「ひゃー!何あれ、セレブ?」 「ハリウッド女優じゃない?ほら、ボディガードいるし」 ヒソヒソとささやかれる声を聞きながらエレベーターに乗せられ、30階のフレンチレストランの個室に通された。 スタッフがメニューを置いて退室すると、瞳子は4人を見渡す。 「いったい何がどうなってるんですか?」 「まあまあ、いいじゃないの」 「せっかくオシャレして高級レストランに来たんだからさ。楽しもうよ」 透と洋平がにこにこしながらメニューを開く。 「オシャレなんてしてませんけど!」 思わず大きな声を上げた時、コンコンとノックの音がしてスタッフが現れた。 「失礼致します。ご注文はお決まりですか?」 するとサングラスをかけたまま、大河がスタッフに話しかけた。 「Let's see. What do you recommend?」 「あ、はい。えーっとToday's special is…」 緊張しながら英語で返事をするスタッフに、ごめんなさいと瞳子は心の中で謝る。 「OK. Sounds nice. Well, I'll have that. How about you? アリシア」 「I'll have the same as you」 ぶすっとしたまま答えると、大河はあっさりOK!と頷きオーダーを済ませた。 スタッフが出て行くと、途端に皆は日本語に戻る。 「いやー、久しぶりだな。こうやってレストランで食事するの」 「そうだな。いつもオフィスで出前だもんな」 「たまにはいいよな、こういうのも」 瞳子は会話の流れを遮る。 「よくありません!悪趣味ですよ。外国人のフリするなんて」 すると洋平が、改まって瞳子に向き直った。 「まあそう言わずにさ。瞳子ちゃん、ずっとマスコミに追われて外に出られなかったでしょ?だから大河が気分転換にって、今回の外食を提案したんだ。身元がバレないように、念には念を入れて、こうやって変装してさ」 え…と、思わぬ言葉に瞳子は真顔に戻る。 「で、千秋さんに相談して衣装を借りてきたんだ。千秋さん、張り切っちゃってさ。これくらいしなきゃ、バレちゃうわって。けどあれは絶対楽しんでたな」 うんうん、と透と吾郎も同意する。 「そうだったんですか。皆さん、私の為に…」 思わずうつむくと、大河が笑いかけてきた。 「おいアリシア。君にはそんな顔は似合わない。ガハハって大口開けて豪快に笑ってな」 「大口って。私、ガハハなんて笑いません!」 その時再びノックの音がして、瞳子は慌てて居住まいを正す。 スタッフが料理を並べると、また皆は英語を使い始めた。 「Wow, it looks delicious」 「Enjoy your meal」 にこやかに笑いかけてからスタッフが出て行く。 「俺、こんなフランス料理初めて食べるわ。いっつもどんな格好して行けばいいか分からなくてさ」 前菜を食べながら吾郎がそう言うと、透が明るく笑う。 「こういう格好してればいいんだよ。またいつでも来ようぜ」 「この格好は不正解だと思いますけど?」 瞳子が思わず口を挟むと、あはは!と皆は笑い出す。 「確かに俺達は妙な仮装だけど、大河と瞳子ちゃんは正解だよ。どう見てもゴージャスなハリウッドカップルだ。ホテル側もきっと喜ぶよ。格が上がるし注目されるからな」 「そうでしょうか?私はバレないかとヒヤヒヤです」 するとふいに大河が顔を上げた。 「アリシア、サングラス取ってみて」 「え?はい」 かけたまま食事するのもマナー違反だが、スタッフがいつ入って来るかと気が気ではなく、外せずにいた。 瞳子がサングラスを取ると、大河がじっと見つめてくる。 「うん、違和感ない。瞳の色が綺麗なブラウンで日本人離れしてる。かけなくていいよ」 「え、大丈夫でしょうか?」 「ああ」 頷く大河に、透も身を乗り出す。 「大河も取ってよ。二人並んでみて。おー、さすが!二人ともそのままにしなよ。そっちの方が逆に怪しまれないからさ」 かけるのも失礼だし、と、瞳子はサングラスを外したまま食事を楽しんだ。
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