ここを出る日

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「おはよー」 翌朝の7時過ぎ。 ふあ…、とあくびをしながらオフィスのドアを開けた大河は、部屋中の明かりが煌々と点いているのに気づき、ん?と眉を寄せる。 「おい、洋平。電気点けっぱなし…」 そう言って奥のソファに目をやった大河は、ガタッとドアにぶつかりながら後ずさった。 (な、な、な、なんだ?どういうシチュエーション?) 大河の視線の先には、ソファに肩を寄せ合って座り、互いの頭をくっつけて眠っている洋平と瞳子の姿があった。 (え、どういうことだ?何をしたらこうなる?) 自分も数回ここに泊まり込んだが、こんなことになった試しがない。 瞳子はいつもコーヒーを淹れてしばらく雑談すると、おやすみなさいと部屋に引き揚げていた。 (透ならまだしも、洋平が?いったい何が…。アウトか?それともセーフか?) 妙な想像をして焦っていると、んー…と洋平が身じろぎした。 「イタタタ…。やべー、背中がつった」 すると隣の瞳子も、ん…と目を開ける。 「あれ?洋平さん?」 「おはよう、瞳子ちゃん」 「えっ、もう朝ですか?」 「そうみたい。俺達、ちょっと盛り上がり過ぎたね」 「ふふ、確かに」 大河は聞こえてきた会話に顔が真っ赤になる。 (盛り上がる?え、燃え上がる?どっちだ?いや、燃え上がり過ぎって何だ?) その場を動けずにいると、更に二人の声がした。 「ごめんね、身体痛くない?」 「んーと、ちょっと痛いかな」 「だよね、俺も。もう一回ベッドで寝る?」 「どうしよう。そろそろ誰か来ちゃうかな」 ハッとして、思わず大河はその場にしゃがみ込んだ。 (いや、待て。どうして隠れる?隠れてどうする?) 落ち着け…と己に言い聞かせるものの、バクバクと鼓動が激しくなる。 (燃え上がり過ぎて、身体が痛い…?もう一回ベッドで寝たいが、誰かが来ちゃう…。え、俺、来ちゃったけど?) そっと部屋から出て行くべきか…と考えていると、ふいに「おっはよーん!」と声がしてドアがガツンと身体に当たった。 「イテッ!」 「ん?何やってんの、大河」 透がドアに手をかけたまま見下ろす。 「い、いやー、ちょっと落とし物をな。あはは!」 「なんだそりゃ?」 透は軽くあしらうと、奥の二人にも声をかけた。 「おはよう!アリシア。ついでに洋平も。気持ちのいい朝だね」 「おはようございます。今、コーヒー淹れますね」 「ありがとう!」 カウンターキッチンにやって来た瞳子が、床にしゃがんだままの大河に気づく。 「あら、大河さん!いらしてたんですか?」 「ああ、うん。たった今ね。ちょうど今、まさに今、来たところなんだ」 「そうなんですね。おはようございます。コーヒー淹れますから、座っててください」 「わ、分かった」 大河は立ち上がると、ギクシャクと固い動きでデスクに向かった。
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