ここを出る日

5/7

6176人が本棚に入れています
本棚に追加
/195ページ
「あの、大河さん」 コーヒーをデスクに置いてから、瞳子が控えめに声をかける。 「ん?どうした」 「はい。あの、こちらにお世話になってもう2週間になります。私、そろそろマンションに戻りますね。これ以上、皆様にご迷惑をおかけする訳にはいきませんから」 「迷惑だとは誰も思っていない。それにマスコミが完全に取材を諦めたとは限らないし、まだしばらくは動かない方がいい」 「ですが、皆さんをソファで寝かせてしまうのも申し訳なくて。私がソファに寝ますって言っても、頑なに断られてしまいますし。それにゴールデンウィークのクロージングセレモニーと、新しいお台場のミュージアムに向けて、ますます忙しくなりますよね?作業が立て込んで、仮眠室を利用される日もあると思います」 「気にすることはない。みんな結局ソファでうたた寝して、仮眠室はほぼシャワーしか使わないからな。それにこのソファ、フルフラットにすれば寝心地も最高なんだ。俺、ソファは座り心地よりも寝心地で選んだから」 「そうなんですか?!」 うん、と頷いて立ち上がり、大河はソファの背もたれをグイッと内側に倒してから、一気に外側へと平面に開いた。 「わあ、広い!」 「だろ?これが2台あるから、くっつけたら二人でも充分寝られ…」 そこまで言って、思わずハッとする。 (な、何を言ってるんだ?俺は。二人で寝るって、誰と誰がだよ?) 「大河さん、寝転んでみてもいいですか?」 「あ、ああ、うん」 すると瞳子は、コロンとソファに横になり、わー、気持ちいい!と両手を挙げる。 「オフィスを眺めながら横になるって不思議。でもすごく寝心地いいです」 「ああ。俺、自分のマンションのベッドより、ここのソファの方がよく眠れる」 「そうなんですか?ふふっ。それにしても、こうやって見ると、本当にオシャレなオフィスですよね。天井のライトも凝ってるなあ」 眩しそうに目を細めた瞳子は、そのままスーッと眠りに落ちていった。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6176人が本棚に入れています
本棚に追加