蘇る恐怖心

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「お電話ありがとうございます。オフィス フォーシーズンズでございます。はい、はい…。ありがたいお話ですが、あいにく間宮は半年先までスケジュールが埋まっておりまして。…はい、申し訳ございません。また機会がありましたらよろしくお願い致します。それでは失礼致します」 千秋の電話対応を自分のデスクから見守っていた瞳子は、千秋が受話器を置くと、あの、と話しかけた。 「千秋さん、私の仕事のお話でしたか?」 「ああ、そうなの。あれから瞳子に司会の依頼が増えてね。ひとまず今は断ってる状況なの。勝手にごめんね」 「いえ、とんでもない。私が表に出れば色々と皆さんにご迷惑をおかけするかもしれませんので」 「うん、そうね。もう少し様子を見させてね」 「はい、分かりました」 瞳子は事務所での仕事に徹することにして、千秋のサポートをこなしていく。 今日の派遣先とメンバーが書かれたスケジュールを見ながら、無事に就業出来ているかの確認をし、連絡を取り合った。 ランチは千秋が近所のデリカッセンをテイクアウトして、事務所で二人で食べた。 久しぶりの千秋との会話は、瞳子の気分を明るくしてくれる。 夕方には、イベントの仕事を終えた亜由美が戻ってきて、3人でお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんだ。 「瞳子、今日はもう上がってね。久しぶりに自宅に帰るんでしょ?やること多いだろうから」 「あ、はい。ではお言葉に甘えてお先に失礼させて頂きます」 「はーい、また明日ね」 瞳子はデスク周りを片づけると、アートプラネッツにいた時の荷物を持って事務所を出た。 大河は、通勤にはタクシーを使えと言っていたが、毎日そんなことをしていてはお金が持たない。 瞳子は用心しつつも、電車で帰ることにした。 帰宅ラッシュにはまだ早く、電車は空いているが、瞳子は敢えて各駅停車の電車に乗る。 それは高校生の頃からの習慣だった。 各駅停車なら、痴漢に遭ってもすぐに次の駅で降りることが出来る。 そして朝は、女性専用車両に乗る。 嫌な思いをしなくてもいいように、思いつく限りの自衛をしていた。 (もっと普通の体形だったら良かったのに) 友達にも言えない深刻な悩み。 これが原因で、今後男性ともおつき合い出来ないのだと思うと、己の外見を恨めしく思う。 (今さら嘆いても仕方ないか) 瞳子は気持ちを切り替えて自宅マンションの最寄駅で降りた。 時折、さりげなく周囲に目を配るが、怪しい人物は見当たらない。 どうやらマスコミは完全に自分を追いかけるのを諦めたようだと、瞳子はホッとしながらマンションへ急いだ。
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