蘇る恐怖心

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エントランスが見えてきて、懐かしさに嬉しくなった時、「間宮 瞳子ちゃんだよね?」とふいに後ろから声をかけられた。 反射的に振り向くと、ずんぐりとした黒い服装の男が、ニヤッと薄気味悪い表情を浮かべながら瞳子に近づいて来る。 (誰?ひょっとしてマスコミ?) 瞳子が無言で身構えていると、男はすぐ近くまで来て瞳子を頭からつま先まで無遠慮にじろじろと眺め回した。 「へえー、こりゃ想像以上にいい女だな。ひと晩でいいから俺と寝てくんない?」 ザワッっと一気に全身が粟立つ。 「ネットであんたのこと見てさ、エロいなーって思ってたんだ。俺、この近所に住んでんだけど、マスコミが大勢うろついてたからすぐ分かったよ。あんたのマンション、ここなんだなって。だからマスコミがいなくなってから張ってたんだ。そろそろお帰りになるかもってな。ビンゴ、だよ」 にじり寄る男に腕を掴まれ、瞳子は恐怖で全身が硬直した。 「やめて、離して」 「そんな小声で呟いたところで、誰も来ちゃくれないぜ?それとも何か?嫌がるフリでもしてるの?いいね、そそられる」 男は興奮気味に荒い息をくり返しながら瞳子に顔を寄せてきた。 「な?俺と一緒に楽しもうよ。あんたもそういうの、慣れてるんだろ?こんなにエロい身体してんだからさ」 そう言って男はグイッと瞳子を抱き寄せ、大きな手でお尻をなでる。 瞳子の全身に嫌悪感が走り、気持ち悪さに吐き気がして思わず男を押し返した。 だが男は全く動じることなく、更に瞳子の身体を強く抱きしめる。 (嫌っ、誰か助けて。お願い、誰か) ギュッと目をつぶり、必死で身をよじりながら心の中で助けを求めた時、「何をしている、やめろ!」と誰かが叫ぶ声がした。 え?と目を開けると、大きな背中が自分の前に立ちふさがり、男を瞳子から引きはがした。 「強制わいせつ罪の現行犯でしょっぴくぞ?」 低い声でジロリと睨みつけられ、男はヒッ!と身をすくめると慌てて逃げていった。 「大丈夫か?」 振り返った頼もしい姿にホッとして、瞳子は一気に涙を溢れさせる。 「大河さん…」 「気になって車で様子を見に来たんだ。間に合って良かった」 大河は身を屈めると、そっと瞳子の顔を覗き込む。 「どこも平気か?ケガはない?」 「はい、大丈夫です。大河さん、ありがとうございました」 「嫌な思いをしたな。もう少し早く駆けつければ良かった」 「いえ、本当に助かりました。大河さんが来てくれなかったら、今頃私…」 想像すると身体が震え出し、瞳子は両手で自分を抱きしめる。 大河は瞳子の頭に手を置くと、再びじっと瞳子を見つめた。 「一人で部屋に帰らない方がいい。オフィスに戻ろう」 そう言うと、地面に落ちていた瞳子の荷物を持ち、車へと促す。 瞳子は頷いて助手席に乗り込んだ。
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