蘇る恐怖心

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ひとまず手頃なビジネスホテルに瞳子を送り届けると、大河はその足で千秋の事務所を訪れた。 「そう、そんなことがあったの…」 経緯を話すと、千秋は視線を落として呟く。 「マスコミがいなくなってホッとしてたけど、そんな悪いヤツもいるのね。油断したわ。冴島さん、またご迷惑をおかけして本当にごめんなさい」 「いや、そんなことはいい。それよりも早く引っ越した方がいい。本当はそれまで、今まで通りうちのオフィスで預かろうと思ったんだが、彼女、今はその…。俺にも怯えてるみたいで」 奥歯に物が挟まったような言い方になったが、千秋はすぐに察したらしく目を見開いた。 「やっぱり彼女、異性が怖いのか?」 恐る恐る尋ねると、千秋は、ふうと小さく息を吐いてから頷いた。 「冴島さんはもう分かってるのね。そう、瞳子は高校生の頃から痴漢に遭ったり、身体目当ての男に言い寄られたりして、男性不信になったの。仕事でもセクハラを受けるから、依頼は私が吟味して、モデルやコンパニオンはNGにしてる。気心の知れた男性に肩をポンと叩かれる程度なら大丈夫だけど、明らかに意図的に触られると、条件反射で相手を拒絶してしまうって言ってたわ。だから私、最初は冴島さんのオフィスでお世話になるのも心配だったの。男性4人しかいないオフィスで寝泊まりするなんて、大丈夫なのかって。でも瞳子、思いのほか楽しそうで。ひょっとして男性不信も治まったのかなって密かに安心してたんだけどね。そっか、やっぱりまだダメなのね」 じっと耳を傾けていた大河は、やがて意を決して顔を上げた。 「千秋さん。今後俺達は彼女とは関わりません。彼女をほんの少しでも不安にさせたくないので。ですから千秋さん、どうか彼女についていてあげてください」 「冴島さん…」 千秋はしばし驚いたようにじっと大河を見つめていたが、再びため息をついて頷いた。 「分かったわ。あとは私が責任を持って瞳子を預かります。冴島さん、それに他の皆さんも、これまで本当にありがとうございました」 深々と頭を下げてから、千秋は大河を見送った。
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