ごく普通の友達

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「間宮さん、今夜はどうもありがとう!おかげで楽しいパーティーになったわ」 ゲストを全員見送ってから、谷崎が瞳子のもとにやって来た。 「谷崎さん、お疲れ様でした。こちらこそありがとうございます。皆様、素敵な方ばかりですね。社長もとってもパワフルな方で」 「そうなの、パワフル!もうね、ほんとに65歳ですか?って突っ込みたくなるくらい」 そう言って谷崎は、ふふっと可憐な笑みを浮かべる。 可愛いなあと見とれていると、ねえ、まだ時間ある?と聞いてきた。 「あ、はい。大丈夫です」 「そう?じゃあ少しコーヒーでも飲まない?デザートも残ってるし。あと30分貸し切りの時間もらってるから」 ビュッフェカウンターのケーキを皿に載せると、瞳子は谷崎とテーブルに向かい合って座った。 「んー、美味しい!いくつでも食べられそう」 「ほんとですね。お料理もとっても美味しそうでした」 「あ!間宮さん、司会やっててあんまり食べてなかったわよね。待ってて、今取ってくるから」 「いえ!そんな。大丈夫ですから」 「いいから、座ってて。ね?」 キュートな笑顔にひるんだ隙に、谷崎はカウンターからパスタやサラダを手際良く盛り付けて戻ってきた。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます!すみません、わざわざ」 「ううん。それにしても間宮さん、本当にスタイルがいいわね。170cm超えてるでしょ?」 あ、はい…と小さく頷く。 「羨ましいな。私もそれくらい高ければ良かったのに」 「ええ?!谷崎さんは今でも充分だと思います」 「ありがとう!ない物ねだりなだけね。ひょっとして間宮さん、本当は自分のスタイルの良さも綺麗な顔立ちも、あまり嬉しく思ってない?」 え…と瞳子は言葉に詰まる。 「私は別に、スタイルも顔も普通ですし…」 「またまたー、そんな訳ないでしょ?でもやっぱりそうか。普通が良かったなって思ってるのね?」 何と答えていいのか分からず、瞳子は思わず視線を落とす。 「間宮さん、もし芸能界に入っていれば、自分の容姿に自信が持てたと思うわよ?背が高くて胸もあって顔も綺麗で…。私みたいにあなたに憧れる女優はたくさんいたと思う。お仕事も、モデルやCMの契約、何だって取れるんじゃないかな?でも…」 そこまで言って、谷崎は一度言葉を止めた。 「間宮さんの幸せは、そこにはないのよね?」 しばし考えてから、瞳子は小さく頷く。 「私は…本当に普通がいいんです。他の人と同じように、ごく普通の恋愛をして、結婚をして、出来れば子どもも欲しくて…。ただそれだけなんです」 「そっか…」 谷崎は呟くようにそう言うと、仕切り直すように明るく瞳子に笑いかけた。 「ねえ、良かったら連絡先交換してもいい?」 「え、ええ?!私が、谷崎さんのような方と?」 「やだ、そんな大げさな。私達、年齢も近いし話も合うから、単に友達になりたいの。『ごく普通』の友達。ね?」 「ごく普通の…」 瞳子はなんだか嬉しくなり、互いの連絡先を交換する。 「わーい、やった!これでいつでも間宮さんとおしゃべり出来る!よろしくね」 「はい、こちらこそ」 二人は、ふふっと微笑み合った。
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