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「大河!何だよこれ?」
「何だよって、何が?」
「何がじゃない!こんな鬼スケジュール、こなせる訳ないだろう?」
透は声を荒らげて、真っ黒に埋められたスケジュール表を大河に突きつける。
9月に入り、オフィスでは、大盛況で幕を閉じたお台場のミュージアムの余韻に浸る間もなく、早くも次に向けて始動していた。
「冬のミュージアムの準備だけでも手一杯なのに、ホーラ・ウォッチの新作発表イベント、テーマパークのクリスマスショー、おまけに企業のCMコンテンツまで!おい、俺達は4人だぞ?どう考えても無理だろうが!」
「無理じゃない。やれば出来る」
「そんな根性論なんて、令和の時代に通用するかよ?俺のデートの時間はどうしてくれるんだよ!」
「相手もいないのに何を言う」
「これから出来る予定なんだよ!」
「出来てから言え」
二人のいつもの醜い争いにため息をつき、洋平と吾郎は顔を見合わせる。
「大河、これを見ろ」
洋平は、締め切りや納期を細かく書き加えたスケジュール表を大河に見せた。
「同時進行で4つ、完成度を落とさずにこなす算段はあるのか?」
大河はじっと目を通すと、やや気弱な口調になる。
「これでもかなり断って絞り込んだ方なんだ。今後のつき合いを考えると、どうしてもこれだけは引き受けておきたい」
「だからって、クオリティを下げて評判を落とすようなことになったら、本末転倒だぞ?」
「分かってる。みんなはいつも通りのペースで進めてくれればいい。あとは俺が休日返上でやるから」
すると吾郎が呆れたように口を開いた。
「大河。お前な、自分が人間だってこと忘れてないか?ぶっ倒れるのは目に見えてる」
「やってみなけりゃ分からんだろ?」
「分かるわ!このスケジュールでどこに寝る暇があるんだよ?ぶっ倒れてから、やっぱり出来ませんでした、ごめんなさいって言われる方が先方にとっても迷惑なんだぞ?無理なものは無理だって、初めからきちんと断るのもビジネスだ」
大河は不貞腐れたように黙りこくる。
吾郎が洋平に、お手上げだとばかりに両手を広げた。
「大河。お前が一度言い出したら聞かないのは分かってる。だったらせめてこっちの要求も聞いてくれ」
「…なんだ?」
自分の意見を受け入れてくれるなら、大抵のことは聞き入れようと、大河は洋平を見た。
「俺達4人では確実に無理だ。せめてもう一人増やしたい」
「増やす?って、人材をか?そんな、俺達の仕事を1から教える暇なんて…」
「そう。だから俺達のことをよく知っていて、即戦力になれる人に頼む」
「誰だよ?そんなやついるのか?」
「瞳子ちゃんだ」
「なっ…?!」
目を見開いて驚く大河と、ええー?!やったー!と喜ぶ透。
そして、上手いこと考えたな、とニヤリと笑う吾郎。
三者三様の反応を見ながら、洋平は淡々と話を進める。
「瞳子ちゃんなら、俺達の目指すものが分かってる。ポスターや紹介映像のビジュアルデザインも、前回携わってくれていたから任せられる。あとは、先方との打ち合わせ、ミュージアムショップで販売するオリジナルグッズのラインナップ、そういうのも女性である瞳子ちゃんの方が俺達より向いてると思う」
思う思うー!俺も思うー!
はしゃぎまくる透は蚊帳の外で、3人は顔を突き合わせた。
「吾郎はどう思う?」
「もちろん、異論はない。瞳子ちゃんが手伝ってくれたら、男だけの俺達の世界観も広がると思うしな」
「よし。大河は?どうする?」
洋平と吾郎は、深刻な表情で何かをじっと考えている大河の言葉を待つ。
「俺は…。俺達にとってはありがたい。けど、彼女にとってはどうなのか…。そこが心配だ」
「それなら、瞳子ちゃんと千秋さんに聞いてみてもいいか?二人がOKならお前も構わないよな?」
洋平に念を押され、大河は仕方なく頷いた。
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