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4月馬鹿
ナナミは結婚して母親になっていた。
娘の奈々子は素直に育ってくれているし、ナナミは自分が寂しかった子供時代を取り返すように奈々子に色々な事をしてあげていた。
「ママ~、美代ちゃんたら酷いんだよ。今日ね、エイプリルフールだからって学校で嘘をつかれたの。午後の授業が音楽室だったのに、教室に変わったよ。って言われて、私だけ教室にいて、先生に叱られたの。」
「あら、嘘をつくにしても人が困らないものにしないとねぇ。エイプリルフールは楽しむためにある日なんだから。楽しめない人はちょっと言葉は悪いけど、4月馬鹿ってことにしましょう。」
「4月馬鹿?なぁにそれ。」
「エイプリルフールの事をそういう風にも言うのよ。
ね、美代ちゃんは、ちょっとお馬鹿さんになっただけ。明日になったら仲直りしてね。1年に一日だけの事だから許してあげましょう。」
「うん。わかった。私はお馬鹿さんになりたくないから楽しい嘘を考えるね。でもさ、なんか思いつかないなぁ。」
「無理やり嘘をつかなくたっていいのよ。本当は嘘をついてはいけないけれど、この日だけは楽しみましょうねって意味でできたんだと思うから。何かみんなを楽しませるような嘘を見つけたらエイプリルフールのお楽しみに取っておいたらいいわよ。」
「そうするよ。」
「よし。じゃ、今日は奈々子の好きなプリン。作っておいたよ~。これは本当だからね。」
「わ~い。いただきます。」
奈々子は学校で騙されたことなどもう忘れたように、プリンをパクパクと食べている。
『よかった。心の傷になるような嘘じゃなくて。でも、教室に一人ぼっちは酷いわね。美代ちゃん。来年のエイプリルフールは私がとっておきの嘘をついてあげるから待っていなさい。
お母さんが事故に遭ったわよ。とかね。私の大事な奈々子を一人にする嘘なんて私は許さないわよ。』
ナナコのエイプリルフールに言う事は嘘ではなくて本当の事。
美代ちゃんは来年の4月1日には少し覚悟が必要かもしれない。
【了】
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