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プロローグ
べたっとした空気が肌にまとわりつく深夜。黒い野良猫が、古いビルの下に横たわる少女の青白い頬をなめていた。少女の見開いた目には光が無く、何も見ていないように空虚だった。半開きの唇の端から滴れた血が、左の頬から首筋を伝い、後頭部の下の血溜まりに流れている。無造作に投げ出された少女の左腕には幾筋もの躊躇い傷があり、黒猫はその傷を、ざらっとした舌でぺろぺろと舐めた。
ミャア……
身を投げる前に餌をくれた優しい少女の匂いをひと嗅ぎすると、黒猫は悲しげな声を残して、眠らない街の喧騒に消えていった。
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