プロローグ

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ

プロローグ

 べたっとした空気が肌にまとわりつく深夜。黒い野良猫が、古いビルの下に横たわる少女の青白い頬をなめていた。少女の見開いた目には光が無く、何も見ていないように空虚だった。半開きの唇の端から滴れた血が、左の頬から首筋を伝い、後頭部の下の血溜まりに流れている。無造作に投げ出された少女の左腕には幾筋もの躊躇(ためらい)い傷があり、黒猫はその傷を、ざらっとした舌でぺろぺろと舐めた。  ミャア……  身を投げる前に餌をくれた優しい少女の匂いをひと嗅ぎすると、黒猫は悲しげな声を残して、眠らない街の喧騒に消えていった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!