第一話 いちばん好きな季節

17/35
前へ
/193ページ
次へ
「お父さん、リムジンってなに? お抱え運転手ってなに?」  亜佐飛は聞く。さきほどから、千綺の話は亜佐飛のような庶民の子どもが知らない単語がよく出てくる。 「リムジンとは運転手つきの高級な車のことだよ。お抱え運転手は特定のお客さんの専属運転手ってこと。お客さんになるのは会社の役員や政治家、芸能人が多いだろうね」  亜佐飛はその言葉の意味を、お金持ちの乗る車とお金持ちのための運転手、と受け取った。 「俺、乗ってみたい!」  北登の目が輝く。彼はもともと電車やバスなどの乗り物が好きだ。 「きみは亜佐飛ちゃんの弟さんかな? 名前はなに?」  千綺は北登に話しかけた。 「北登です」 「北登くん、リムジンに乗りたい時はいつでも言って。乗せてあげるから」 「わあっ!」  これで、北登の心はますます千綺に掴まれたことだろう。
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加