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あの少年は客ではなく、ホテル側の人間だったようだ。レストランにひとりでいたのも、ホテルの勝手がわかっているからか、と亜佐飛は納得する。
「だから、あの時『お客さま』って言ったのね」
彼の言う「お客さま」とは、亜佐飛を含めたホテル・イングロッソの宿泊者全員のことのようだ。
そして、千綺の父親の兄が桂夏の父親なら、彼の名字も堂領で間違いない。
「そうだ。あいつにも亜佐飛ちゃんがずっと泊まることを教えておかなくちゃね」
「えっ」
千綺はラウンジから移動しようとした。これから桂夏に会うのだろう。亜佐飛の心はどきどきとする。自分はなぜ緊張しているのだろうと、その理由は亜佐飛自身にもわからなかった。亜佐飛は同級生の女子がどんなに「かっこいい」と騒いだとしても、特定の男子に魅力を感じることはない。これは亜佐飛にとって初めての気持ちだった。
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