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この日は比較的、夜風が涼しい日だった。
日中の茹だるような暑さからは離れ、顔にあたる風が心地よく感じる。
二人を待っている間、おれは家の外に出てタバコをふかしていた。紫煙が闇に溶けていく。スマホを見ると、光綺からの連絡が来ていたことに気がついた。
タバコを地面に捨てたところで、一台の乗用車が曲がり角を曲がってこちらへやって来る。ヘッドライトが眩しくて、思わず目を細めた。
おれは躊躇することなく後部座席のドアを開ける。運転席には兄の大河が。助手席には、おれの同級生の光綺が乗っていた。
「外で待ってたのかよ」
「なんかさ、わくわくしてさ」
ははっ、とおれは少し恥ずかしさを隠しながら笑った。
「だって久しぶりじゃんか、三人でドライブなんてさ」
「まあそうだな」
大河はおれのテンションとは裏腹に、以前と同じような冷静さで声を返した。
「どこ行く? 二人は飯は?」
「飯はもう食った。なんだ、腹減ってんのか?」
「いや、それは大丈夫」
「そっか。とりあえず、行くぞ」
大河はアクセルを踏んだ。夜の街を走り出す。時刻は午後十一時半を過ぎた辺り。
「お前、それビール?」
「ん? ああ、そうだな。飲むか?」
「いや、いいよ別に」
「ふーん」
光綺が振り返ることもなく缶ビールを傾けながらおれに言った。この兄弟は、相変わらず低めのテンションだ。いつも三人で遊ぶときはおれが話の中心となっている。エピソードを話し、ときには自分でボケてみたり、ツッコミを入れてみたりして。
それに笑うのが光綺だ。おれのどんなしょうもない話でも、楽しそうに笑ってくれるからこっちもつい調子に乗って話を続けてしまう。たぶん、そんな関係が合っていたのだろう。小学生からの付き合いだ。こいつとはケンカもした覚えがない。それぐらい気の合う友人。
「二人ともさ、暇だったの?」おれがそう訊くと、兄の大河が答える。
「まあ、そうだな」
「こんな時間だけどさ、久しぶりに連絡したらすぐドライブでも行くかって決まったじゃん。一緒にいたんだ?」
「まあ、そんなとこ」
「仲良いな、相変わらずさ。男兄弟でそんな仲良いやつあんまいないぜ」
「そんなことないだろ。別に普通だよ。なあ?」
大河は弟の光綺にそう訊いている。
「普通、普通。いたって普通だから」
「変な兄弟」
「ほっとけ」
光綺は冷めた感じでそうツッコミを入れる。酔っているわけではないらしい。
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