惚れて通えば千里も一里

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私は中指で黒縁眼鏡を押し上げ、校門を通る生徒たちに目を光らせる。 ネクタイが歪んでいる人や、スカートの丈が短すぎる人に注意を飛ばす。 「おはようございます。シャツはせめて第2ボタンまで留めてください」 爽やかに挨拶をしながら、目の前を通り過ぎていく女子生徒に注意した。 彼女は首元に手を伸ばしたが、きっと下足室で靴を履き替える頃には第2ボタンまで開けることだろう。 毎月、最初の登校日に月に一度の身だしなみチェックの日がある。風紀委員としてはこの日こそ大変でやりがいのある仕事はない。 今日の4月1日は、本来は春休みなのだが、新2、3年生は身だしなみチェックと宿題の進捗報告を兼ねて登校となっている。 長期休暇だからといって、だらけさせないためらしい。夏休みでも冬休みでも登校日が設けられている。冬休み期間はお正月と被るため、1月4日が登校日になるのだけれど。 多くの生徒からすれば、朝の身だしなみチェックは面倒に思うかもしれない。 服装の乱れは心の乱れと言う言葉がある。注意せずに野放しにしていれば、その内この学校は治安の悪い学校になりかねない。 そもそも、この高校を選んで入ってきたのは生徒たちの方だ。郷に入っては郷に従え、だ。制服の身だしなみチェックがあることも、制服の着崩しが許されていないことも、この学校の決まりなのだから守ってもらわなければ。 だというのに、意地でも校則を守らない生徒が2年生に1人いるのだ。 彼の名前は茜崎(あかねざき)絽万(ろまん)。脱色した白金の髪にはクロスさせたピンクのヘアピン。何かを聞いているのかいつも黒のヘッドホンをしている。髪とヘッドホンに隠れている耳にはいくつものピアス。 眠たそうな目が緑なのは生まれつきだそう。そもそもカラコンなら私は一目で分かるから、こればかりは注意できない。 ただし制服はいつも着崩している。平然とブルーのネクタイを緩め、開けられている第2ボタンからはリングが通されたシルバーのチェーンが覗いている。当然のようにシャツインはしない。 靴を履きつぶすのは彼の身の安全のためにもやめてもらいたいものだ。 ここまでで校則違反だらけだ。 髪染に制服の着崩し。ヘアピンは違反ではないけれど、ピアスやネックレス等のアクセサリーは禁止だ。 生徒手帳にもそう記載されているというのに、一切守らない。
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