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ーー
その日は春休み期間であることもあり、お昼前には帰れることになっていた。
私は家に帰る前に本屋に寄って参考書でも買おうと思っていたため、学校でお昼ご飯を食べてから帰ることにした。
教室にはまだ生徒がたくさん残っているため、誰もいないであろう風紀委員会室に移動した。
予想通り誰もいなかった教室でひとり、お弁当を広げる。
自分で作った……と言えるか危うい冷凍食品弁当だ。
もそもそとご飯を食べていると、教室を覗き込む人影に気が付いた。
「っ!」
驚きのあまり、食べていたグラタンのエビをそのまま飲み込んでしまった。
私はお茶をゴクゴクと飲んでエビを胃に流し込む。
「だ、誰!」
私は立ち上がって教室の入り口から距離を取りながら、外の人影に向かって叫んだ。
「あ、やっぱり先輩だ」
呆気なく開いた引き戸から顔を覗かせたのは、白金の髪にクロスさせたピンクのヘアピンを付けた人物だった。
目を丸くしてその場で固まる。
「……あ、茜崎くん……?」
「そうでーす。あ、お弁当。これもしかして先輩の手作り弁当ですか?」
「……冷凍食品よ」
「えぇ……。先輩の手作りだったらもらおうと思ったのに……」
「冗談言ってないで。っていうか、あなた朝は黒髪だったじゃない!」
眼鏡も外していて、見慣れたヘッドホンは首にかけられている。第2ボタンまで開けられている胸元にはリングの付いたネックレス。シャツは出しているし、上履きも履きつぶされている。
いつも通りの茜崎くんだ。
……これがいつも通りと言ってしまえるのもどうかと思うけれど。
「こっちの方が僕らしいでしょう?」
「……」
見慣れ過ぎていて思わず頷いてしまいそうにはなるが、風紀委員としては素直に頷くことは許されない。
「朝はあんなにちゃんとしていたじゃない。この数時間で何があったのよ……」
「宮元先輩は今日が何の日か知らないんですか?」
何の日……と言われても。
「春休み期間の登校日よ」
「それだけじゃないですよ。4月1日ですよ? カレンダーにも書かれてたりするイベントがあるでしょう?」
「……まさか」
エイプリルフール。
私を騙すためだけに真面目くんのふりをしたというの……?
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