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■3.逮捕
ぼくたちは、常にグループで動いていた。演技には、自信があり、仲間には重宝がられた。今までのようなどうでもいい存在としての扱いではない。アホみたいに安い給料ではなく、報酬がきちんとあった。必要とされている充実感があった。しかし、ある男性を騙したときに仲間がミスをし、僕も逮捕され服役した。
「普段は、トランプは僕に忠実なんです。ほら」
ピエロが、カードを一枚自分の斜め上に投げた。
え? ブーメランのようにカードがピエロに戻ってきた。そして、それをピエロは受け止めた。
ほかの客も、とても驚いていた。
確かに、こんなの見たことがない。
ただ、凄いとは思えるんだけど、なんか、すべての感覚がくぐもった音のように感じる。
刑務所に服役中、その騙した男性の弟という人物が、しきりに面会を求めてきた。もちろんそのたびごとに断った。すると今度は手紙が来た。こんな内容だった。
*
……面会してあなたに直接言いたいことがありました。しかし、あなたは拒否してしまう。それで、手紙で伝えることにしました。あなたは、自分のしたことを、どこまでわかっているのでしょうか。
あなたの架空投資話で、なけなしの貯金とあなたに投資をするためにした借金を全て兄は奪われました。ギリギリの経営をしていた兄の工場は倒産し、兄は自殺してしまいました。兄の家族は離散し、連絡が取れません。
特殊詐欺のグループリーダーのことを、「番頭」というのだそうですね。刑事さんに聞きました。グループメンバーの大半は、捕まえたけど、肝心な、番頭は逃がしてしまったし、金も戻ってこなかったと。本当は、メンバーの全員を八つ裂きにしたくてたまらないです。
優しい兄は、病弱な私を、経済面だけでなく、声をかけ、子どもたちと共に遊びに来てくれたり、いろいろな面で援助してくれていました。兄がいなかったら、病気で死ななくても、人生に絶望して私は自殺していたことでしょう。その兄を、こういう形で殺された私の気持ちが、あなたにわかるでしょうか。
本当は、詐欺グループ全員に言ってやりたいのですが、私の兄を騙す担当者であったあなたにしか、連絡が取れないので、あなたに、この気持ちをぶつけたいと思います。
私は、体も心も、あまりに苦しく、死にたくてたまらなかったのですが、兄の死で、私は泥水をすすってでも、生きようと思うようになりました。ここで自殺したら、あなたたち裏社会の人たちに兄弟そろって、負けたようで、あまりにも悔しいからです。その点では、感謝しています。憎しみは、とても不健康な気持ちですが、人をより強く生かすこともあるのですね。
もう一つ、あなたに言いたいことがあります。刑事さんは、こういうことも言われました。詐欺は、再犯率がとても高い犯罪であると。
たぶん、スリルと利益がたまらないのでしょうね。でも、その先には、生身の人間や家族がいる事を忘れないでください。
あなたにも、両親や兄弟姉妹がいるでしょう?
もし、あなたが、兄や離散した家族のことに対して、少しでも良心の呵責を感じるのならば、二度と「人を不幸にする仕事」に就かないでほしいのです。まっとうに生きてください。私の心からの願いです。
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