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■4.感情
僕は、自分の仕事を「金を無駄に余らせてる奴から奪い、有効活用してやっている」くらいにしか、思っていなかった。
自分は、間接的にかもしれないが、人を殺し、いくつもの家族を壊したのだろう。父が違う形でやったようなことを。
「トランプは、常に僕に忠実でーす」
ピエロはハサミを取り出した。
「しかし、ときどき反逆することもありまーす」
ピエロがカードを投げて、またブーメランのように戻ってきたカード。それをピエロはハサミで受け止めて切ってしまった。
カードは地面に落ちた。
「また、ツマラヌものを斬ってしまった……このネタ。古過ぎるかなー?」
ピエロは、またカードをシャッフルしている。
そのシャッフルしている音で、また、僕は思い出していた。
僕の父親は、酒に酔っては、母を殴っていた。父も母も、僕や弟をどなったり、殴ったりした。
どんなふうに家でふるまっていても、ひっぱたかれる。だから、いつもピリピリしながら、家で過ごしていた。ちょっとした両親のふるまいや表情で前兆がわかると、すぐに弟と一緒に逃げたり隠れたりするようになった。
そんな暮らしの中で、人間観察を養う目が育ったのだと思う。ちょっと見では、僕は演技がうまかった。僕は、漫画のヒーローやお洒落に生活している人たちに憧れた。よく、その漫画の台詞や動きを真似して、空想に耽った。
一刻も早く家を出たかった。役者になりたいと思った。しかし、世の中は、そんなに甘くはなかった。書類審査で
あの遺族の手紙を読んでも、涙は出なかった。親とか兄弟に、温かい気持ちなんて感じたことが、無かったから。でも、自分のやったことに対して気持ちの悪さは、感じた。
放浪生活になっていた僕になついてくれていた野良猫がいた。はじめて、温かくて可愛いと思える存在に出会えた。しかし、ある日、猫は突然、車に轢かれて死んだ。少しだけ、ああ、これが、悲しいという気持ちなんだとわかった。
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