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 真穂と侑志が知り合ったのは11月。大学近くの中華料理屋だった。  真穂はカウンター席で大盛りのチャーハンを食べていた。  おいしくて、夢中になって食べていると、近くの席の男性客たちが言った。 「やば」 「あれ女一人で食えんの?」  けっして悪気がある感じではない。  むしろ関心しているような口ぶり。  けれど、真穂の手は止まった。  なんだかもやもやする。  そう思った瞬間、隣の席からぼそっと低い呟きが聞こえた。 「人が何食べてようがあんたらに関係ないだろ」  それはまるで真穂の心を代弁してくれたようだった。 「ですよね!」  真穂は勢いよく隣を向きながら返す。 「あ、まあ、うん」  若干引きながら返事をしたその男性こそが侑志だった。  背が高く、整った顔立ちはどちらかと言えば強面で、威圧感があった。  本人が意識せずとも、他人から必要以上に怖がられるタイプなのかもしれない。  実際、彼の呟きを聞いた男性客たちは気まずげに口を閉ざしていた。  真穂は彼を怖いとは感じず、むしろかっこいいと思った。気付けば、さらに話しかけていた。   「あの! もしかしてY大学の方ですか?」    侑志は答えない。    かわりに彼の隣にいた友人の森岡が「そうだよー」と教えてくれた。  真穂はそこから何度も侑志に話し掛け、森岡の協力もあって、少しずつ距離を縮めていった。  そして12月。クリスマスの日に真穂は彼に告白した。  侑志の返事はこうだった。 「俺、付き合ってるからってあんまりあれこれ言われたくなくてさ。連絡もそんなに取りたくないし、休みの日もふらーっと旅行行ったりするけど、それでもいい?」 「はい! 全然気にしません」 「じゃあよろしく」 「こちらこそ!」  侑志と付き合えるならそんなことはどうでもよかった。  何より、告白を受け入れてもらったことが嬉しくてたまらなかった。  友達にも「実は彼氏ができて」と報告した。    しかし、彼女たちの反応はあまり良くなかった。 「何その人。大丈夫なの?」 「真穂ちゃん、初めての彼氏なんだよね? もっと大事にしてくれそうな人と付き合った方がいいんじゃない?」  その時は友達の心配に対し、真穂はあまり深刻に考えていなかった。    たしかに侑志はマイペースで、真穂と会うよりも自分の時間を大事にする人である。  でも、そんな人が真穂の行きたいラーメン屋で一緒に並んでくれたり、時々照れ臭そうな顔を見せてくれる。  それだけで真穂はどきどきした。  もっとこの人の特別になりたい。  侑志以外は目に入らない。  だから、どれだけ侑志に会えなくても大丈夫、なんて思っていた。
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