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3
真穂と侑志が知り合ったのは11月。大学近くの中華料理屋だった。
真穂はカウンター席で大盛りのチャーハンを食べていた。
おいしくて、夢中になって食べていると、近くの席の男性客たちが言った。
「やば」
「あれ女一人で食えんの?」
けっして悪気がある感じではない。
むしろ関心しているような口ぶり。
けれど、真穂の手は止まった。
なんだかもやもやする。
そう思った瞬間、隣の席からぼそっと低い呟きが聞こえた。
「人が何食べてようがあんたらに関係ないだろ」
それはまるで真穂の心を代弁してくれたようだった。
「ですよね!」
真穂は勢いよく隣を向きながら返す。
「あ、まあ、うん」
若干引きながら返事をしたその男性こそが侑志だった。
背が高く、整った顔立ちはどちらかと言えば強面で、威圧感があった。
本人が意識せずとも、他人から必要以上に怖がられるタイプなのかもしれない。
実際、彼の呟きを聞いた男性客たちは気まずげに口を閉ざしていた。
真穂は彼を怖いとは感じず、むしろかっこいいと思った。気付けば、さらに話しかけていた。
「あの! もしかしてY大学の方ですか?」
侑志は答えない。
かわりに彼の隣にいた友人の森岡が「そうだよー」と教えてくれた。
真穂はそこから何度も侑志に話し掛け、森岡の協力もあって、少しずつ距離を縮めていった。
そして12月。クリスマスの日に真穂は彼に告白した。
侑志の返事はこうだった。
「俺、付き合ってるからってあんまりあれこれ言われたくなくてさ。連絡もそんなに取りたくないし、休みの日もふらーっと旅行行ったりするけど、それでもいい?」
「はい! 全然気にしません」
「じゃあよろしく」
「こちらこそ!」
侑志と付き合えるならそんなことはどうでもよかった。
何より、告白を受け入れてもらったことが嬉しくてたまらなかった。
友達にも「実は彼氏ができて」と報告した。
しかし、彼女たちの反応はあまり良くなかった。
「何その人。大丈夫なの?」
「真穂ちゃん、初めての彼氏なんだよね? もっと大事にしてくれそうな人と付き合った方がいいんじゃない?」
その時は友達の心配に対し、真穂はあまり深刻に考えていなかった。
たしかに侑志はマイペースで、真穂と会うよりも自分の時間を大事にする人である。
でも、そんな人が真穂の行きたいラーメン屋で一緒に並んでくれたり、時々照れ臭そうな顔を見せてくれる。
それだけで真穂はどきどきした。
もっとこの人の特別になりたい。
侑志以外は目に入らない。
だから、どれだけ侑志に会えなくても大丈夫、なんて思っていた。
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