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4
(でもまさか春休みの間一日も会えないなんて……)
意気消沈した真帆をよそに、春休みはあっという間にやってきた。
侑志は予定通り旅に出掛けた。
連絡すら取っていない。
電話もメッセージのやり取りも侑志は好きではないので、控えている。
真穂はも一応それなりに春休みを満喫しようと試みた。
短期のアルバイトをしてみたり、友達と出掛けてみたり。
そうしている内に、3月下旬になった。
あと数日もすれば侑志も帰ってくるはずである。
──それでもやっぱり寂しいものは寂しい。
お花見で賑わう公園から自分の部屋に帰ってきた真穂は、すっかり元気をなくしていた。
(わたしも先輩とお花見行きたかったなあ……)
床にぺたんと座り込む。
真穂の膝の上には、公園から持って帰った桜の花びらの詰め合わせがあった。
開ける気分ではなかったけれど、一応中を確かめようと、リボンをほどく。
「うわっ」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
気づけば部屋中に、桜の花びらが散らばっていた。
真穂は驚きながら辺りを見回して、花びらが入っていた袋を覗く。
空っぽだった。
勝手に袋から花びらが飛び出したらしい。
わけがわからなくて、真穂はしばらくその光景をぼーっと眺めた。
花びらは咲いている時と変わりなく、瑞々しい薄桃色だった。
もしかして造花?と思いながらすくってみたが、作り物にしてはあまりにもリアルな感触だった。
とりあえず一旦集めようと、立ち上がる。
しかし、袋に集めようとした途端、花びらたちは逃げていく。
床の上を軽やかに舞って、巧妙に真穂をかわしていく。
徐々に真穂は疲れて、大きなゴミ袋を片手に花びらたちを追いかけることにした。
部屋の隅に追い込んで、ゴミ袋をがばっと被せる。
「よし!」と喜んだが、花びらはまったく捕まえられていなかった。
はらり、と一枚花びらが上から落ちてきて真穂はそちらを見上げる。
花びらはぜんぶ天井にぶら下がっていた。
がっくりとその場に膝をつく。
いったい自分は何をしているのだろう。
一人こんな変な花びらと追いかけっこなんてして。
寝転ぶと、真穂の上に花びらがちらちら降ってくる。
まるでからかわれているようにも思えてむっとしたが、だんだんまあいいかという気分になってきた。
どうせしばらく一人なのだ。
こんな変な花びらと一緒なのも悪くないかもしれない。
(先輩も桜見てるかなあ)
見てたらいいなあと思いながら、真穂は束の間目を閉じた。
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