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(でもまさか春休みの間一日も会えないなんて……)  意気消沈した真帆をよそに、春休みはあっという間にやってきた。  侑志は予定通り旅に出掛けた。  連絡すら取っていない。  電話もメッセージのやり取りも侑志は好きではないので、控えている。  真穂はも一応それなりに春休みを満喫しようと試みた。  短期のアルバイトをしてみたり、友達と出掛けてみたり。  そうしている内に、3月下旬になった。  あと数日もすれば侑志も帰ってくるはずである。  ──それでもやっぱり寂しいものは寂しい。  お花見で賑わう公園から自分の部屋に帰ってきた真穂は、すっかり元気をなくしていた。   (わたしも先輩とお花見行きたかったなあ……)  床にぺたんと座り込む。  真穂の膝の上には、公園から持って帰った桜の花びらの詰め合わせがあった。  開ける気分ではなかったけれど、一応中を確かめようと、リボンをほどく。 「うわっ」  一瞬、何が起きたのかわからなかった。  気づけば部屋中に、桜の花びらが散らばっていた。  真穂は驚きながら辺りを見回して、花びらが入っていた袋を覗く。  空っぽだった。  勝手に袋から花びらが飛び出したらしい。  わけがわからなくて、真穂はしばらくその光景をぼーっと眺めた。    花びらは咲いている時と変わりなく、瑞々しい薄桃色だった。  もしかして造花?と思いながらすくってみたが、作り物にしてはあまりにもリアルな感触だった。    とりあえず一旦集めようと、立ち上がる。  しかし、袋に集めようとした途端、花びらたちは逃げていく。  床の上を軽やかに舞って、巧妙に真穂をかわしていく。    徐々に真穂は疲れて、大きなゴミ袋を片手に花びらたちを追いかけることにした。  部屋の隅に追い込んで、ゴミ袋をがばっと被せる。  「よし!」と喜んだが、花びらはまったく捕まえられていなかった。  はらり、と一枚花びらが上から落ちてきて真穂はそちらを見上げる。  花びらはぜんぶ天井にぶら下がっていた。  がっくりとその場に膝をつく。  いったい自分は何をしているのだろう。  一人こんな変な花びらと追いかけっこなんてして。  寝転ぶと、真穂の上に花びらがちらちら降ってくる。  まるでからかわれているようにも思えてむっとしたが、だんだんまあいいかという気分になってきた。  どうせしばらく一人なのだ。  こんな変な花びらと一緒なのも悪くないかもしれない。 (先輩も桜見てるかなあ)  見てたらいいなあと思いながら、真穂は束の間目を閉じた。
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