タンポポと夕焼け

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「…………」  少し冷たい風が頬を撫でる。ゆっくり目を開けると、保健室の窓からは水色にほんのり混じった夕焼けの空が見えた。換気のためなのか十センチほど窓は開いていて、素っ気ないアイボリー色のカーテンの裾が揺れている。 「たける?」  ボーッと空を眺めていると、なっちゃんの声がしてギョッとする。振り向くと、なっちゃんがベッドの横に座り俺を見下ろしていた。 「あ……」  言葉が出ない。  なっちゃんは心配そうに眉を下げ、口元だけで微笑んだ。 「しんどいなら無理して来なくてよかったのに」  ツイとなっちゃんの手が伸びてきて、俺の額をふんわり覆った。  心臓がギュッと縮む。 「熱はないって。どう? 起きれそう? 辛いなら親に迎えに来てもらう?」 「だだだだ、大丈夫、寝不足だったから、それだけ、寝たから、もう」  ゆっくり起き上がりシューズに足を突っ込むと、なっちゃんが俺の鞄を持ってくれた。ちょうど校医が戻ってくる。 「あ、森崎君、眩暈はない? 歩けそう?」 「はい。大丈夫です」 「お大事にね。今日は早く寝るのよ」  保健室を出て、ふたりで廊下をゆっくり歩く。  なっちゃんが俺が目覚めるのを待っていてくれたのが嬉しく仕方ない。心配してくれたのも。鞄を持ってくれるのも。でも、それも、今日までなのかもしれない。  明日からは、ううん、もう、俺の夏生じゃないんだ────。  こうやって俺を気遣ってくれる優しいなっちゃんが消えるわけじゃない。  でも、一緒にいて一番楽しい相手じゃなくなる。俺は二番。二番でもないか。C組の女子がどれだけ魅力的なのか知らないけど、なっちゃんはきっと初の彼女(・・・・)に夢中になるんだ。俺はただの同級生に成り下がる。
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