タンポポと夕焼け

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「おはよう」 「あ、なっちゃん、おはよお」  翌朝、俺たちは駅で待ち合わせをして登校した。こうやってふたりで並んで学校へ行くのは初めてだった。照れくさいけど、嬉しい。  ウキウキしていると、なっちゃんが耳元で囁いた。 「体は大丈夫? しんどくない?」 「だっ! 大丈夫だよ! って、実はあちこち筋肉痛だけど」 「だよね。ごめんね。俺、暴走しちゃって」 「……そうなの?」  落ち着いてみえたのに、なっちゃんも夢中だったことが知れて余計に嬉しい。あ~ダメ、頬がゆるゆるしちゃう。 「って言うかさ、そのC組のなんとかさんは断ったの?」  家に帰ってからそのことを思い出して、心配してた。  なっちゃんはキョトンとして、「ああ」と頷いた。 「実は告られてない。あれウソだから」 「えっ!? う、ウソ?」 「うん。ウソ」 「なんで?」  パニックになる俺に、なっちゃんがのほほんと言った。 「増田のアドバイスに従ったの。たける、全然告ってくれないから」 「はぁぁぁ?」  顎がガクンと落ちる。  なにそれ!? てか、増田さん知ってるの? 俺たちのこと! 「な、な、な」  ワナワナしている俺になっちゃんがニヤリと笑った。 「たけるさ、俺が告られるたびに、泣きそうな顔でどうするの? って」 「お、おれ?」 「そんな顔されたら、付き合えないじゃん? 断ったよって言うと、嬉しそうにニコニコしてさ。たけるって俺のことめちゃめちゃ好きなんだなって思ってたよ。一年の時から」 「ーーーーっ! そ、そ、そんなわけっ!」  言い返そうとしたけど言葉が出ない。図星だから当然だ。 「おふたりさん、おはよー」  後ろから声をかけられハッとして振り向くと、ギャルみの強い増田さん。隣にいるのは、C組のなんとかさんだった。 「あ……」 「おはよ」  なっちゃんがいつもの調子で挨拶すると、増田さんは「ふふふ」と意味深な笑いを残し、俺たちを抜いて歩いていった。C組のなんとかさんは俺たちをチラッと振り向き、増田さんの手を握る。  え……そういうこと? 「いいなぁ。手つなぎ。俺たちもつなぐ?」  なっちゃんの手が伸びてきたから、その手を握ってなっちゃんの腹にグン! とねじ込んだ。 「いてて」 「俺のほうがあちこち痛いわ」 「そうでした。今日の体育は休めよ」 「いやだよ。バスケやりたいもん」 「途中でダウンしたら、お姫様抱っこで保健室連行するけどいい?」 「なっ」  言い返そうとしたら、なっちゃんが肩に腕を回した。グイと引き寄せられる。なっちゃんが耳元で甘く囁いた。 「そしたら保健室のベッドで一回させてね? 昨日は手加減したから今日も俺んちで続きしよ」  なっちゃんは穏やかで、誰にでも親切で優しい。  そんななっちゃんのSな部分を俺だけが知っている。そんなことを喜びに感じてしまっている俺は、なっちゃんが言うように、めちゃめちゃなっちゃんのことが好きなんだろう。そして、もっともっとなっちゃんに夢中になって、なっちゃんがいないと生きていけないくらいドロドロに溶けてしまうのかもしれない。  そんな未来が脳内を過り、背筋がブルッと震えた。  そんなのは────怖すぎる。でも……そうなりたい自分もいる。  動悸は治まらない。  なっちゃんの唇が触れた耳が熱い。  結局俺はノーと言えず、コクンと頷いた。 タンポポと夕焼け おわり
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