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「なっちゃん、帰れる?」
退屈な六時限目がやっと終わった。教室から教師が出ていき、いつものように夏生を振り返ると数人の女子のせいで夏生が見えない。ひとりが振り返った。ギャルみの強い増田さんだ。
「森崎君、石田君は大事な用件があるので帰れません。先に帰ってね」
は? なんでお前に言われなきゃいけないんだよ。
内心カチンときたけど、女子達の圧に怖気づいてしまう。
え? なになに? 問答無用って感じ? 強制連行?
ツッコミを入れたかったけど、隙間から見えた夏生が俯いたまま笑っているのがチラリと見えたから口を噤んだ。
「なんか知らないけど、お先」
早口で夏生に伝えたけど、夏生からの返事はなかった。
廊下をトボトボ歩きゆっくり階段をくだって靴箱へ到着。「たける~まってよ~」って、背中から声が聞こえるのを期待したけど、なかった。
校門をくぐり駅へ向かう。
……はぁ。まぁたアレかな。告白タイムかな?
石田夏生こと、なっちゃんはモテ男だ。背も高いし、顔もいい。アホないきり発言もしないし、悪口や陰口も言わない。いつだって優しい笑顔で誰にでもニコニコするから、女子からの人気も高い。もちろん男子にも教師にも受けがいい。こういうことも一度や二度じゃない。年に数回は見る光景だ。
指折り数える。
「にー、さん、しー……」
なんだかんだで三年間、腐れ縁。一年の時から数えて十回くらい告られてるんじゃないかな?
なっちゃんは誰とも付き合わない。俺が知る限りだけど、告白されても全てお断りしている。いつもあとで「告られたの?」と聞くと、「あ、うん。まあね」と嬉しそうな感じもなく答える。で俺が、「どうするの?」と聞くと「断ったよ」と。どうしようかなーと迷うわけじゃなく、その場でアッサリお断りしているらしい。
それが学年で一番カワイイ子だったりすると、流石に「なんで断ったの?」なんて俺も聞いたりして。
でもなっちゃんは「なんでって、好きじゃないから?」と普通に答える。
モテない男子からすれば、勿体ないの一言に尽きる。でもなっちゃん曰く「好きな子なら楽しいし頑張れるけど、気持ちがない子とデートとか疲れるだけじゃんね」……らしい。
俺が「ふぅん」と返事をすると、いつもなっちゃんは言う。
「好きでもない子とデートするより、たけると一緒にいたほうが百倍楽しいよ」
その発言に一度俺が「きもっ」と眉を寄せたら、なっちゃんは「ええええ」とショックを受けてた。分かりやすく悲しい顔をするから「ウソウソ」と笑って背中を叩いてやったっけ。
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