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ぼんやりとしたまま帰宅し、君にもらったボールペンを無造作にペン立てに突っ込んで、寝室のベッドに倒れ込んだ。
君からのプレゼントだから大切にしたいのに、過去を思い出させ、君を傷つけるきっかけにもなったそのボールペンをどう扱えば良いのか分からなかった。
違う。傷つけたのはボールペンのせいじゃなくて、僕のせいで……。
どう謝ればいいのだろう。
メッセージアプリを開いて『ごめん』と入力してみるものの、送信ボタンが押せない。今日はエイプリルフールだから。
ふと思い立ち、本棚の隅に置かれた箱から古い携帯電話を取り出した。折りたたみ式のその携帯を充電し、起動する。
履歴に残った、彼女からの最後のメールを読み返した。
エイプリルフールだけど、嘘をつくつもりはなかったこと。
病気で死ぬのも好きという気持ちも、本当だということ。
本当は、病気のことは言わないつもりだったこと。
もうすぐ死ぬ自分の好意は僕の邪魔になると思ったこと。
エイプリルフールなら、うっかり口を滑らせても嘘だと思い込んでくれると思ったこと。
嘘だとだまされてくれるように誘導したのは自分だから、気に病まないでほしいということ。
最初で最後のデートなのに暗い雰囲気になりたくなかったということ。
たった一つだけ、「またね」と嘘をついたこと。
彼女の母親によって亡くなった後に送信されたメールには、「娘のわがままを許してあげてね」と書き加えられていた。
当時、何度も読み返して泣いた。
彼女が「好き」と言ってくれたのに嘘だと思ってしまったことが、どれだけ傷つけてしまったかと考えて泣いた。
どうしても「さようなら」が言えなくて、「またね」と言った彼女の気持ちを想像して、また泣いた。
今はもう涙は出ない。ただ、後悔するだけだ。
3年間同じクラスだった。
嘘が嫌いな真っ直ぐな性格が好きだった。
話すのが大好きで、秘密にしようと思っていたことまで言ってしまうところも可愛いと思っていた。
どうして告白する勇気を出せなかったのだろう。
嘘をつかない君がなぜ4月1日を選んだのかという疑問を持てていれば、何かが変わっただろうか。
そして、僕はあの時のように、今日もまた好きな人を傷つけるのだろうか。
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