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お店に着くと、昼の様子とは違いカウンターには多くの種類のお酒とグラスが並べられ、週末だけあって店内の席もテラス席もお客さんで埋まっていた。
「こんばんは。」
店内に入り辺りを見回すと、咲くんが駆け寄ってきた。
「佳乃さん!来てくれたんですね!」
今日も咲くんは笑顔で出迎えてくれる。
「満席かな?」
「さっきカウンターのお客さんがお会計されたので、もう空くと思います。2人ですか?」
咲くんの表情が少しぎこちない気がする。気のせいかもしれないけど。
「うん、2人。」
「ちょっと待ってて下さい。」と言いながら咲くんはカウンターのお客さんに声を掛け、席を空けると、慣れた手つきでテーブルの上を片付け私たちに向かって手招きをした。
「どうぞ。」
おしぼりとメニューを渡される。
メニューにはタパスやアヒージョなど美味しそうな写真が並んでいて、裏面は全部ドリンクメニューで、カクテルもかなりの充実だ。
「こんばんは。ご来店ありがとうございます。ドリンク決まりました?」
カウンターの奥から旭くんが顔をだす。
「芝山くん、何にする?」
「僕ビールで。」
「私も同じの。」
芝山くんと食事のメニューに目を通しながら、何を注文するか相談する。
「佳乃さんの、彼氏ですか?」
旭くんが芝山くんを一瞥しながら、カウンターにビールを置いた。
「同僚の芝山くん。今日一緒に中目黒で打合せで。」
「はじめまして。」と芝山くんはいつもの子犬の様な笑顔で挨拶をした。
「なるほど。咲が店の外の佳乃さん見つけて喜んで、男性と2人で入って来たから途端に落胆してましたよ。」
旭くんが可笑しそうに笑いながら、店の奥に下がっていった。
「「乾杯!」」
芝山くんのグラスに自分のグラスをあて、カチンっと音を鳴らす。
「週末のビールって最高ですよね!」
「だねぇ。今週なんだかんだ忙しかったしね。」
芝山くんは『はぁー。』と大きなため息を付き、ビールを堪能している。
各々好きな食事を注文し、暫くして運ばれてきた。
「ハムの盛り合わせです。」
咲くんが後ろから手を伸ばし、カウンターの上に置く。
「仕事帰りなんですね!」
咲くんの表情からぎこちなさがが消え、スッキリした顔をしている。
「そうそう。打合せが長引いちゃって、こんな時間。」
「佳乃さんも、同僚さんもお疲れ様ですね。」
「咲くんもお疲れ様。」
「お疲れ様です。」と咲くんに向かって芝山くんはまた愛嬌良く答えている。
「俺も飲んじゃおっかなー!」
咲くんが私たちのビールを羨ましそうに見る。
「飲んで良いの?」
「お客さんに勧められれば飲んだりしますけどね、酔わない程度に。でも今はお客さん多いからなぁー。飲みたいけど我慢ですね。」
「飲んでいいんだ。そしたら、お客さんが落ち着いた時にはお誘いするね。」
「絶対ですよ!!」と念を押しながら、咲くんはテラス席のお客さんに呼ばれ出て行った。
外で話が盛り上がっているようで、笑い声が店内まで聞こえてくる。彼の人当たりの良さや溌剌とした雰囲気は人を惹きつけるよなぁ。と考えながらビールを一口飲んだ。
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