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「これサービスです。」
「ありがとう。」
旭くんはミックスナッツとチョコレートをカウンターに置いて、そのままテラス席の方へ片付けに向かった。
芝山くんは多様なカクテルに興味津々で、隣でメニューを吟味している。
ーーー見たことあるチョコレートだ。
最初にこの店を訪れた時に咲くんがくれたのと同じチョコレートだった。
まだ数週間しか経っていないのに、なんだか懐かしく感じる。
あれから、カクテルを1、2杯飲み終わった頃には店のお客さんも減り、賑わいも落ち着いてきていた。
芝山くんの頬は赤みを帯び、可愛らしい表情は緩み、さらに愛らしさが増している。
芝山くんは5年下の後輩で、昨年10月に私の部署に配属された。半年ほど共に働いており、仕事での絡みは多いが、プライベートな話はほとんどしたことがなかった。
住んでいる最寄駅が近かったことや、出身大学が同じだったこと、映画鑑賞が趣味なことなど意外に共通点が多く、話が盛り上がった。
「僕、カリモーチョにします。」
芝山くんはあたりをキョロキョロ見回すと咲くんと目が合ったようで、咲くんがこちらに向かって歩いてきた。
「注文ですか?」
「カリモーチョください。」
「はーい。佳乃さんは、何かいりますか?」
「私はまだ大丈夫。」
注文中、芝山くんは咲くんをじっと見ている。咲くんは視線に気づき、たじたじとしながら注文を旭くんに伝えに行った。
少しして旭くんはカウンター内に戻って来てカクテルを作りだした。
「咲さん?って、佐倉さんの知り合いなんですか?」
「あっそうそう。ここ昼間は咲くんがカフェしてるんだけど、最近よくコーヒー飲みに来てて。それで、夜はバルだって教えてもらってたの。」
「最近ってことはまだ知り合ってそんなに経ってないんですか?」
「だね。まだ3週間も経ってないかな。」
「へー、なのに佐倉さんにあんなに慣れ慣れしいんですか。」
「あはは。そうだね。咲くんは距離感が近いよね。」
芝山くんは日頃は温厚で言葉も和らかいが、たまにオブラートに包まず鋭く確信を突いてくることがある。いつもの愛嬌の良い彼の内面は、意外に鋭く、真面目で几帳面。疑問に思ったことは確認しないと気が済まないタイプだ。
「それにしても佐倉さんには近すぎのような。」
「カリモーチョです。」
旭くんがカウンター越しに置くと、話が聞こえていたようで芝山くんに話しかける。
「咲は人懐っこいやつだけど、さすがに佳乃さんへの態度は特別ですね。すごい懐いてるし。意外にあいつ女の子にはドライなんですけど。」
『特別』にされてるのか?嬉しいような恥ずかしいようなむず痒い気持ちになるが、でも何故?と疑問が浮かぶ。
「最初会ったときから咲くんはあんな感じだったけど。・・・懐かれるようなこともしてないしね。」
「うーん。でもあの感じは、下心ありですね。」
芝山くんは推理するように、顎に指を当てポーズをとっている。
「下心?!」
「ちょっと、ちょっと、後輩くーん!!」
片付けをしていた咲くんが、自分の話題になっているのに気づいたようで、慌ててやってきた。
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