春のはじまり

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春のはじまり

3月初旬、徐々に日が長くなり、寒さが和らぎ始めた。窓から差す朝日も明るさを増し、心なしか鳥たちも元気に鳴いているように感じる。春だ。 春は苦手だ。 季節の変わり目で自律神経が乱れるのか、花粉症で目や鼻が痒いからか、外の様子とは裏腹に憂鬱な気分になる。 「東京の桜の開花予想は3月下旬頃となっています。今年は各地で桜祭りも開催される予定で・・・」 ニュース番組のお天気コーナーで若い女性気象予報士が嬉々とした声で、桜の開花予想と花見情報を読み上げている。 (もう桜の季節か。) 朝の支度をしながらテレビの音声に耳を澄ます。 春が苦手なのは、自分のコンプレックスを1番刺激される時期だからでもある。 昔から人に一歩踏み込むのが苦手だ。学生の頃の新学期なんて、友人ができるか不安で憂鬱しかなかったし、仲良くなれるまでの期間は気疲れする毎日だった。 社会人になってからも新年度の人事異動で送別会、歓迎会、と人付き合いが多い。数年前までは新人歓迎会にお花見を行うのが毎年恒例になっていて、それがここ数年で廃止されたのは心から嬉しかった。 それでも表面的に人と付き合うのは努力して上手くなったと思う。やっぱり深い付き合いをするのは苦手だけど。 あと、もう1つ。 私は2年前の春、結婚を意識していた元彼に失恋した。桜満開の時期に、彼が赤ん坊を抱えた奥さんらしき女性と一緒にいるところを目撃した。桜並木の花弁が春の風で吹雪く、綺麗に晴れた日だった。それ以降、桜を見ると苦い気持ちになる。 「いってきます。」 誰もいない部屋に向かって一言つぶやいて家をでる。
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