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通勤電車を降りると、春風が吹き抜けるビルの谷間を歩き会社へ向かう。
まだまだ朝方はコートを着ていても肌寒い。
どんよりとした曇天の空が、重く心にのしかかる。
「おはようございます。」
既に数名が出社しているオフィスに入る。
コートを脱ぎ、自分のデスクに座ろうとした時、同僚の"芝山 琥太郎"に話しかけられた。
「佐倉さん、おはようございます。
笹部さん今日お休みだそうです。お子さんが発熱したらしくて。」
芝山くんは子犬のように愛らしい笑顔でこちらを見ている。色白で中性的な顔立ちの彼は、社内の女性社員からも人気があり、声を掛けられればいつでも笑顔で返している。そんな彼の愛嬌の良さには毎度感心する。
「おはよう。了解です。今日笹部さんがでる予定だった打ち合わせは残りのメンバーでなんとかなるかな。」
「大丈夫だと思います。」
「じゃあ、よろしくね。」
デスクの席につく。
"笹部 里香"は私の同期で数年前に結婚し、今は2歳の子どもを抱え、時短勤務で働いている。
子どもの発熱などで突発的に休むことがあり、同じグループ内でいつでもフォローできるようにしているが、家族を支えながら働く彼女の大変さは相当のものだろう。
会社での『助け合い』や『支え合い』。いつか私も助けられ、支えれるる日がくるかもしれない。それに働きながら子育てをしている彼女たちを素直に応援したいと思っている。
入社してもう直ぐ10年。同期のほとんどは結婚し、独身者は私を含め数人だ。
2年前元彼と別れてから、婚活パーティーに参加したり、マッチングアプリに登録もしてみた。
それでも自分の行っている行為が元彼を失った寂しさを埋めるため、元彼を忘れるためで、前提に「元彼」がある自分に嫌気が差し、やめてしまった。
結婚はしたいと思っている。いつか結婚し人並みの家庭を築きたい。その相手は元彼の代わりではなくて、一緒にいて落ち着いた時間を過ごせ、幸せを感じられる人が良い。
立ち止まってしまっている自分に焦燥感を感じているし、このまま1人で生きていくのは寂しい。仕事は充実していても、帰れば1人だ。
そんな日々になんとなく鬱屈とした気分になっていた。
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