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4
「うわ、落ちてる」
「え、また?」
「またとか言うな。普通落選のほうが多いんだぞ」
冷静な口調ながらも裏側に悔しさが滲んでいる。自信作だったのかもしれない。
ぷおん、と青すぎる空にトランペットの音が響いた。体育館からはバスケ部がボールを床につく音も聞こえて、昼過ぎなのに放課後みたいだなと思った。
八月は夏真っ盛り。最高気温も三十度を超える毎日だ。
そうなると花壇の水やりも一日一回では間に合わなくなる。雑草や害虫も活発化して、こまめに取り除かなければすぐにやられてしまう。夏休みのほとんどはそのために使われていた。
「いやそんなの言い訳か。落ちる前提で応募してちゃ選ばれるわけない」
「ストイックすぎだよ。ちゃんと寝てる?」
「ああ。身体壊しちゃ元も子もないからな。三時間は寝るようにしてる」
「すでに元も子もなくなってそうなんですけど」
いつも午前中に屋上を訪れる私よりも彼は来るのが早い。
その目の下には色濃いクマができている。半袖シャツから伸びる細い腕はますます華奢になっていて、ご飯をちゃんと食べているのかも怪しい。
「一次選考は通るんだ。問題は二次。何だ、何が足りてない?」
ぶつぶつと呟く麦谷くんはギターを抱えたまま広げたノートに何かを書いている。
ちらりと覗くと、いくつかの音符とたくさんのアルファベットが見えた。あれがコードというやつだろうか。
「え、いい曲」
ノートを見ながら彼が手癖のように弾いていた曲はさらりと耳あたりが良く、夏の猛暑を駆け抜ける涼風のような爽やかさを感じた。
簡単に弾いてこれだ。彼が本気で弾けばもっと良いものになるに違いない。
「でも落選だ」
「これで駄目なんだ。審査って全然わかんないね。こんなにいい曲なのに」
「そう言ってくれるだけで救われるよ」
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