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「全部繋がってるの。土の中の種が芽吹いて、根を張って、茎を伸ばして、葉をつけて、蕾を作る。そのために日当たりのいい場所で水と栄養をあげる。それを毎日毎日繰り返す。どれが欠けても綺麗な花は咲かない」  彼は毎日良い音をたくさん鳴らしていた。  その音符ひとつひとつが連なって、もうあの青い空まで届いてる。  眩しい星まではまだ時間が要るのかもしれないけど、きっとそれもいつか叶う。私にはわかる。 「麦谷くんの努力は正しいよ。今までの全部が無駄じゃない。もし今の全部を出し切ってもまだ足りないって言うなら、もっと鳴らそうよ。届くまで」  扉から聞こえる彼の音楽が脚を持ち上げてくれるから、私は毎日毎日屋上まで上がってこられた。  君の音にはそれだけの力があるんだ。 「枯れそうなら私が水をあげる。折れそうなら私が引っ張ってあげる」  私は左手のペットボトルを突き出す。透き通った液体がきらりと揺れた。  日の光を浴びる彼の頬は少し赤らんでいる。 「だから、咲いてよ」  左手から重さが消えた。  私の手からペットボトルを奪い取るように掴んだ彼は、半分ほど残っていた水をごくごくと派手な音を鳴らしながら流し込んでいく。  そのまま勢いよく飲み干して、ぷは、と息を吐いた。 「……それ、すげえきついこと言ってるのわかってる?」 「もちろん。花は咲くのにすごいエネルギー使うもんね」 「それを俺にやれと」  私は口角を上げる。抑えていても上がってしまう。  頭を垂れていた花が再び顔を上げたときの喜びと似ていた。 「園芸部部長として、咲きそうな花をみすみす枯れさせるなんてできないの」  彼はようやく笑顔を見せる。  頬を上気させて、薄っすらと額に汗を浮かべて、それでも真っ直ぐに立っていた。その頭頂は青い空に向いている。 「スパルタだな」 「園芸部は運動部だからね」 「それじゃ部員増えないだろ。やっぱり俺が入ってやろうか」 「うん。今の麦谷くんなら大歓迎だよ」  私は頷いて、彼の瞳の奥を覗き込む。もう大丈夫だ。 「……いや悪い。俺、他にやりたいことあるんだ」  麦谷くんは私から目を逸らした。その視線の先にはフェンスに立てかけられているギターケースがある。  もう彼の視界に私は入っていないようだ。 「あーあ、フラれちゃった」  自分の声が楽しそうに「人生は厳しいね」と空に伝えた。
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