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「本当におめでとう。すごいよ」  彼の肩から離れて、こっそり目元を拭いながら讃える。  麦谷くんは少し照れながらも「ありがとう」と素直にお礼を言った。 「これでなんとか進路の交渉材料ができた。受賞まで行けたら完璧だけど、駄目でも本気で目指してることくらい伝わるだろ」 「もし聞く耳持たなかったら私に言って。取り計らってあげるから」 「ちょっと待て。そのジョウロで何する気だ」  彼が怯えた目で見てくるので私は持ち上げたジョウロを静かに下ろす。  ほっと息をつく彼を横目に、私は傍に置いてあった鞄に手をやった。手だけで中身を探り目当てのものを発見する。 「麦谷くん」  名前を呼ぶと、彼はにやけた顔をこちらに向けた。  さっきから何度も嬉しそうに画面を確認しているところ悪いけど、今度は私の番だ。 「私も麦谷くんに見てほしいものがあるの」  鞄からプリントを一枚引き出す。線だけの簡単な表が書かれているそれは彼にも見覚えがあるはずだ。 「進路希望表?」 「そう。私も自分の進路決めたんだ」  持っていたプリントを彼に手渡す。  第一希望から第三希望まで記入する枠があり、私は第一希望の欄だけを埋めていた。 「え、農業大学?」  麦谷くんは私の進路希望表を見て目を丸くした。私は頷く。  今日の結果次第では黙っておこうと思っていたから、この話ができるのは二重に嬉しい。 「農業大学で育て方とか品種改良とかを勉強しようと思ってるの。私は園芸部長だけど、入ってすぐにみんないなくなっちゃったからほとんど本で調べた知識しかないんだよね。だからここで一回しっかり勉強しようかなって」 「ほんとに花が好きなんだな桐葉は」 「うん。でも今度は花以外も育ててみようかと思ってる」 「花以外って野菜とか?」  麦谷くんは私に進路希望表を返す。それを受け取り、もう一度自分で決めた未来を確認した。  この道が正しいのかはわからない。けどこれが自分の進みたい方向なんだと自信を持って言える。 「ううん、穀物の勉強をしようと思うんだ」 「え、穀物?」 「そう。世の中の穀物をもっと美味しくしたり、栄養価を高めたり、加工しても質の落ちない最高級品が作れたりしたらすごくない?」  将来的にはさ、と私は空を見上げた。  頭上には淡い青色が広がっていて太陽と雲が浮かんでいる。今、彼の目は見られなかった。 「その最高級の穀物を使って、スーパースターでも食べたくなるようなコーンフレークが作れたらいいなって」
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