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「あ、落ちた」
かきん、と突き抜けるような音がした。ホームランだ、と勝手なことを思う。
「落ちたというより上がったって感じがするけど」
「何言ってんだ?」
二次選考落ちしたんだよ、と手元のスマートフォンを覗き込みながら麦谷くんはさらりと言った。
「え、うそでしょ」
「ほんとだって。まあ本命じゃないやつだけどさ」
「そういうもんなの」
「コンテストにも草野球からメジャーリーグまであるからな」
彼はいつも通りに軽口を叩く。確かに少しショックそうではあるが大きなダメージはなさそうだ。
コンテストで結果を残して、自分の夢を親と教師に認めさせる。
そのために彼は数多くの音楽関連のコンテストに挑戦していた。今はインターネットを通して音源データを送れば高校生でも簡単に応募できるらしい。
屋上で作曲して、家では録音や編集作業、という毎日を送っているそうだ。私から見れば、それはもうプロの生活じゃないかと思う。
「人生は厳しいね」
「ああ。みんな本気だもんな」
彼は地べたに立てていたペットボトルを煽る。透明な天然水が彼の喉を鳴らした。
「でも進路の話とかしてるとさ、もうほんとに三年生なんだなあって感じだよね」
ぱらぱらとジョウロの口から雨が降る。その雨粒は緑の葉に当たって弾けて、土の色を変えた。
ある程度土が湿ったところで私はジョウロを振り、偏りのないよう満遍なく水を撒いていく。
「時間の流れって早いよね。この三年間何してたのかな、私」
「桐葉は三年間立派に部長を務めあげたろ」
「廃部寸前の部だけれど」
「自信持てよ。三年も部長やったやつなんていないぞ。伝説級だ」
「その伝説を語り継いでくれる人もいないんだよ」
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