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「結局さ、自信だと思うんだよな」
「自信?」
「そ、自分を信じられるかどうか。イケメンやビッグな血筋、金持ち、ってのはそれだけで他よりも勝ってるものがある。そこだけでスーパースターになれるってわけじゃないけど、誇れるものがあるのとないのじゃイザってときに違うと思うんだよな」
「イザっていつよ」
「さあ」
それから麦谷くんは喋りすぎたのか、影の中でもやはり暑いのか、傍に置いていたペットボトルの蓋を開ける。
それはどこのスーパーでも見かける安い天然水だったが、彼はとても美味しそうに飲んだ。
「だがうちは一般家庭だ」
「どういう自慢?」
あまりにもきりりとした表情で彼が言うものだから私はつい突っ込んでしまう。
「別に自慢じゃない。朝はコーンフレークで済ませるような普通の家ってことだ」
「普通の洋風の家」
「パンよりは栄養あるだろ」
「どうして私たちは敵対してしまうんでしょうね」
洋風同士手を取り合うことはできないのかしら、と隣国と争いの絶えない国に生まれた心優しきお姫様のようなことを考える。
「とにかく俺がスーパースターになりたい理由はこれだ」
「どれよ」
「どうせ自分なんかって目指す前に諦めてる凡人に教えてやりたいんだよ。一般家庭でも夢叶えられるんだぜって」
影の中で麦谷くんはにっと笑う。
「スーパースターもコーンフレーク食べて育ったんだぜって」
その笑顔は高貴なものとは言い難かったが、私にはとても眩しく見えた。
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