第二話、どうやら幼少期から現在進行形で九尾の狐から執着という名のストーキングをされていたようです。

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   ***  次の日、朝陽と博嗣、そして男の三人は殺生石の元へと向かった。当然ながら石からは何の気配も感じない。封じられていた本人は既に出ていて、何食わぬ顔で朝陽の隣を陣取っているのだから当たり前の事なのだが。 「ほらほら、見てよ朝陽。私こんなちっぽけなとこに閉じ込められてたんだよ。酷いと思わない? あり得ないでしょ! もっとこうさ、敬って欲しいよね!」  ——煩い。静かにしていて欲しい。その前に敬われる様な事したんかよ。 「あーね、もう始まるかなー。私早く朝陽の所に行きたい」  本当に災害を齎していた存在とは思えない程に、男は無邪気だった。  博嗣と朝陽は無言で返し、心を無にするように努める。時間になり、博嗣の経読みの横で朝陽が結界を張り直していく。新しく用意された大きな石に、簡単に壊されないような強度を誇る結界を施した。  村人たちは鎮魂を、博嗣は読経を、朝陽は結界を。心を一つにする。 「わー、思ってた以上に育ってるね朝陽。凄い! これじゃいくら私でももう抜け出せないかも。さすが私の嫁。霊力量も格段に上がってるし質も綺麗。見惚れるくらい綺麗だよ」  ——お前は『俺肯定bot』か!  気恥ずかしくて顔から火が出そうだった。  よく喋る男の頭を『黙っていろ』と(はた)きたいが、今は手が塞がっている。逸れそうになっている思考回路を元に戻すように、一度目を閉じてから朝陽は目先の事に集中した。  やがて鎮魂祭は終わりを迎える。集まっていた村人達は、ホッとした表情で満面の笑みを浮かべていた。  ——なんか……ごめんなさいっ‼︎  博嗣と朝陽の心の声が重なった。    家に戻って、三人分の茶を入れて座卓を囲む。疲れる事など何もしていないのに疲労感が凄い。朝陽の霊力は底なしだ。いくら使おうと枯渇することは無い。精神的な疲労感に苛まれていた。 「朝陽、お前本当に良かったのか?」 「あー。いいよもう。ガキの頃の約束なんて覚えてないけど、さっきちゃんと口約したし俺の所に連れていく。ここに置いとくと何するか分からないからな」 「楽しみ」  男は朝陽の隣に腰掛けて本当に嬉しそうにしている。そんな様子を尻目に見ていたが朝陽は顔を上げた。 「そういえばさ、俺が結界を張っているのに何でこの家に入れるんだ?」  男が顔を綻ばせる。何をしてても煌びやかに見えるので目が痛かった。 「昔朝陽に黄色の玉をあげたの覚えてる?」 「あ、ああ……」  まさか行方知れずとは言えないが。 「その中に私の妖力を込めてたんだよね。あの玉は一定の時が経てば、朝陽の体内に吸収されて、朝陽の霊力と私の妖力が混ざるように細工してたんだ。だから私の妖力が溶け込んだ朝陽が張った結界は、朝陽と一緒だと私は入れるよ。誤認識されるからね。まあ、結界の強度にもよるけど。それに朝陽がいない時は無理だけどね。後、あの玉を通して私には朝陽の居場所が手に取るように分かるし視える。今一緒に住んでいるあの怨霊……平ノ将門の事も勿論知ってるよ」  朝陽の周りにだけ氷河期がきた。  世間一般ではこういうのをストーカーと呼ぶ。  しかもタチの悪い方のストーカーだ。 「ちょっと、イチャイチャし過ぎじゃない? これからは勿論私とも遊んでくれるよね?」  追い討ちを掛ける様に氷点下で発せられた言葉に、ゾワリと鳥肌が立つ。男からヤンデレ属性が垣間見えて、言葉も出てこない。その前に朝陽のプライバシーも何もない。どこからどうツッコミを入れて良いのかさえも分からなかった。  本当に全てがどうでも良くなってきて、座卓の上に頭を乗せたまま朝陽は瞑目する。 「さてと、ワシは今日神社にでも泊まろうかの。後は番契約の当事者同士で宜しくやっとくれ」  腰を上げて出て行く博嗣に「ばいばーい」と男が手を振っている。  もうどうにでもなれ。そんな気持ちでいっぱいだった。
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