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「何だこの霊は。えらく変わった霊じゃな」
変わってるどころか特級中の特級と言ってもいい程の変わり種だ。
「あーー。その平ノ将門公なんだけど……いるぞ?」
何だか全てがどうでも良くなってきて、朝陽は視線をソッと横に流して言った。
「やっぱり知っておったのか! して、今何処におる?」
興奮ぎみの博嗣が勢いよく立ち上がる。
血圧が上がらなければいいが、と朝陽は他人事のように思った。
「俺が平ノ将門だ」
背後からまた朝陽を抱き寄せて、将門がサラリと口にした。
「は?」
「コイツも言っている通り、本物の平ノ将門だ」
博嗣は言葉も発せない程に固まっている。
「あーー。ちょっと色々あってな。勝手に将門の髪切ったり、服変えさせてイメチェンさせたけどこの通り、将門は元気だから心配しなくて大丈夫だ」
博嗣の体が横向きに倒れた。
「ううう、ん」
博嗣の呻き声がベッドからあがる。
朝陽が覗き込むと博嗣の目が開いてきた。
「じいさん、目ぇ覚めたか?」
「ああ。酷い夢を見た……」
「それは大変だったな。起き上がれるか?」
手を取ってベッドに腰掛けさせる。
博嗣の視線が朝陽を捉え、ついでに視界に飛び込んできた将門を映した。
ビクリと肩を震わせて、また倒れそうになった所を朝陽が支え「おーい、じいさんしっかりしろ!」と声を掛け続ける。
「た、平ノ将門公‼︎」
「おう。何だ?」
壁に寄りかかり、片膝を立てて座っていた将門が博嗣を見た。
場所を移動して朝陽の背後に張り付く。
——あー、どうするかな……。
この状況下で言っていいものかどうか朝陽は悩みはしたが、どうせ倒れるなら先に言っておいた方が倒れるのも一度でいいかもしれないと思い直し、朝陽は先に最大級の爆弾を投下した。
「そうそう。将門は俺の番だった。少し前に番契約も結んだんだ。だから塚にいないのは当然なんだよ。コイツずっと俺ん家にいるし」
この通り背後霊になっている、と親指で将門を指し示して見せる。
博嗣はまた倒れそうになっていたが、左手を顔に当てて天を仰いでいた。
「お前は何をやっとんじゃ! 朝陽ぃい‼︎」
怒号が飛んだ。
「平ノ将門公の髪を勝手に切ったばかりか、こんなチャラチャラした格好をさせおってからに!」
「仕方ねぇだろ、浮遊霊と思って浄霊しようとしたら将門だったんだから。その時コイツの髪焦がしちゃって切るしかなかったんだよ。俺も驚いたっての」
嵐のような説教をくらい、朝陽も言い返しながらテーブルに移動して床に座り直す。
「おい、喧しいぞ。少し黙れ」
「申し訳ございませんでした!」
ゼロコンマで展開された博嗣の土下座に気を良くし、将門は朝陽の腹に手を回して抱きしめ直した。
頸に口付け、舐め上げる。
「将門、お前ちょっと大人しくしてろ」
朝陽が後ろに手を回して将門の頭を撫でた。
飼い主に喉を鳴らしている猫状態だ。
目の前で広げられるイチャつきように、博嗣は言葉を失った。
随分と長い沈黙が落ちる。
意を決したのか、博嗣が頭を下げながら言った。
「あの……不躾で大変申し訳ございませんが、将門公、塚の方へは……」
「あ゛あ゛? 俺は朝陽のところ以外へは行かん。塚には戻らんぞ」
不機嫌そうに目を細めた将門の言葉を聞いて、博嗣が小さく悲鳴を上げた。
「俺が責任持って将門を浄化しておくから放っておいてやってくれ」
「そういう訳にもいかんのだ。あの場所は結界の役目もあってだな……戻って貰わん事にはここら辺全ての結界の均衡が崩れるのじゃ」
「じゃあ、俺がその結界の強度を上げて張り直す。それでいいだろ? ていうか初めっからそれが目的で来たんじゃねーのか?」
朝陽はじっとりとした非難めいた視線を博嗣に向ける。
「う……」
図星だった。
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