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朝陽がその話を聞かされたのは次の日の昼過ぎだった。
ベッドの住人と化しながら、朝陽はスマホを手に昨夜の話を聞いている。
「もしかして此処って昔の物部の家だったのかな。それで個人的に買い直したとか?」
「朝陽はどうして物部アマヤが気になるんだい?」
晴明からの問いかけに、朝陽は「うーん」と唸った。
「アイツ、なんか俺と境遇が似てると思ったんだ。俺にはちゃんと血の繋がったじいさんがいたけど、物部は誰も居なかったんかなと思ったらちょっと同情しただけだ」
さりげなく聞いた赤嶺には、物部と親戚だった事も最近知ったと告げられている。
突然知らない番号から着信が入り、朝陽はハンズフリー通話にした。
『住みたいなら、金なんて要らないからそのまま住んでていいよ。その代わり、僕が成人したら籍入れてあげる』
「ふざけるな‼︎」
朝陽が答える前に皆が同時に叫んだ事により、霊波干渉を受けたスマホから妙な音が響いて通話が途切れる。
少し話してみたいと思っていた朝陽は残念に思ったが、かけ直さなかった。
「朝陽!」
キュウが声を荒げて朝陽を呼ぶ。
「はいっ」
声が裏返ったままキュウを見ると、その目はかつてない程に病んで据わっていた。
「私、芸能界入って稼いでくるから引っ越そう。そしてアイツとは完全に縁を切る。分かった⁉︎」
「あー、うん……分かった」
そう言わざるを得ない剣幕だったので、朝陽が大人しく頷く。するとキュウが綺麗に笑んで見せた。
「もし内緒で会ったりなんてしたら、私にも考えがあるからね。その時は覚悟してなよ」
朝陽にだけ氷河期が再来した。
その二日後だった。
会社に向かう途中で、後ろから走ってきた自転車にベルを鳴らされ、朝陽は左側に身を寄せた。
しかし、その後ろ姿は何処からどう見ても物部で、朝陽は条件反射の如く壁に張り付いた。
「壁が友達って寂しい人だね、貴方」
引き返してきてまで声を掛けた物部を避けるように無視を決め込む。
だが、そんな朝陽を嘲笑うかのように物部が朝陽の腕を引いた。
「あのな~! 何なんだよお前はっ。俺の事殺そうとしてたくせに!」
「してたけど、それが何? 今は単に貴方に興味があるだけだけど?」
「ツンデレでヤンデレ属性サイコパス盛りとかキャラ濃過ぎんだろっ。やめろ!」
「別に誰にも迷惑かけてないからいいでしょ」
「かかってんだよ、俺にっ‼︎」
「貴方にしかしてないから当然だよ」
「あーさーひー?」
「ほら見ろ! キュウが怒って……、え……キュウ?」
振り返るとおどろおどろしい妖気を放っているキュウがいて、朝陽はまたしても壁に張り付いた。
「こんな心の狭い番なんて捨ててしまいなよ。僕の方がよっぽど貴方の事を理解してやれる。どうせ人間からは嘘つきだとか化け物だとか蔑まされて来たんでしょ? 僕は貴方の唯一の理解者だ」
——ああ、やっぱりだ。
似た物同士の同族嫌悪。けれどそこからは何も生みだせやしない。空しくなるだけだ。話してみたい気はするが、朝陽はもう関わらない事を選択した。
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