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「俺はお前を選ばねえよ」
静かな口調で朝陽はそう口にした。
「何でコイツらは良くて僕はダメなのさ?」
「お前がダメなんじゃない。俺は自分から望んでコイツらと一緒にいる。コイツら以上に誰かを好きにならない。だからお前は選ばない。それだけの話だ」
道ゆく人が振り返って朝陽達を見ている。中には黄色い声をあげる女子高生たちもいたが全て無視した。
「会社まで私が送って行くよ。また虫にたかられても不愉快だからね」
「一番の虫はそっちじゃないの? 人間に擬態してまでこのビッチに張り付くなんてよっぽど美味しいんだね、朝陽って」
何気に酷い言われようだが、朝陽はスルーする事にした。
今はツッコミを入れている場合じゃない。周りからの視線も痛いが、時間がない。隙をついて走り出そうとしたものの、キュウに腕を取られる。
「朝陽走らないで。お腹の子に何かあったらどうする気なの?」
物部が目を剥く。
「は? お前ちょっと腹見せろ!」
物部にも強引に引き寄せられて、腕の痛みに顔を顰めると、キュウが物部を引き剥がして朝陽を背に匿った。
「五人? 五つ子て何それ。ビッチにも程がない⁉︎」
「ビッチビッチうるせえよクソガキがっ。番の子なんだからいいだろ別に!」
とうとう堪忍袋の尾が切れた朝陽が叫ぶと、道ゆく人が何人か振り返って朝陽達を見ていた。足早に去る者も居れば、黄色い声をあげる女子高生たちもいる。
「行くぞ、キュウ」
「はーい」
キュウの手を取り、駅に向かって歩き出した。
先程とは打って変わって会社まで終始機嫌良くしているキュウが不思議で「機嫌直ったんだな?」と聞いてみた。
キュウに目が痛くなるくらいの綺麗な微笑みを浮かべられる。何故か周囲の人間にスマホを向けられている気がしないでもないが朝陽は無視した。
「朝陽の指って細くて綺麗だよね」
ずっと手を繋いでいたのを本気で失念していた。
一本一本絡ませた指を目の前まで持ち上げられ、ロボットのような動きで周りを見渡す。出社が重なった社員達が立ち止まって見ていた。いや、ガン見である。
「おい、狐。何で朝陽の手ぇ握ってやがる」
将門とニギハヤヒが加わり「今日は儂の日だろう?」と、ニギハヤヒに抱きしめられた。
ずっと手を繋いでいたのを失念していた事に気が付いても後の祭りだ。
「待て……、頼む、待ってくれお前ら」
冷や汗をかきすぎて寒気すらしている。
「あ、皆んな見つけたー!」
オロと晴明までもが集まり、ヨシヨシと番達に頭を撫でられる。唇、額、頬、手の甲に全員から口付けられた。
「朝陽の浮気者っビッチ! 僕だけだって言ったのに‼︎」
そう言って自転車で走り去った物部を見て、外野が騒つく。
「てっめー、物部! 何シレッと混ざってんだっ、悪ノリしてんじゃねえよ! 本当っぽく聞こえんだろが!」
物部が振り返り、愉快犯よろしくベッと舌を出して消えて行く。
——あいつ、自転車で追ってきたんかよ。
ニギハヤヒに抱え上げられ、正面から抱きしめられる。
瞬く間にシャッター音の嵐にみまわれた。しかも連写だ。
「うう……俺の平穏な人生が終わった」
その時撮られた写真がSNSでバズりまくり、五人は本格的にスカウトされて芸能界デビューを果たした。
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