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第二話、どうやら幼少期から現在進行形で九尾の狐から執着という名のストーキングをされていたようです。
『朝陽、お前来週の数日間だけでもうちに来れんか?』
博嗣からそう電話があったのは、一週間前の晩飯時だった。
仕事から帰ってきたばかりで着替えもしないまま通話に応じたので、朝陽は通話をハンズフリーにして、会話と着替えを同時進行させていた。
初めの頃はスマホを物珍しがって朝陽が電話をする度に周りを彷徨いていた将門も、今ではのんびりとベッドの上に転がったままだ。
飽きたらしい。そんな様子が有り有りと伝わってくる。ちょっと可愛かったのに残念だ、と嘆息した。
朝陽は「休みが取れるか明日にでも聞いてみるよ」と言い、通話を終了させる。厄介ごとの匂いがするが、断ると言う発想に至らないのは、両親を幼い頃に事故で亡くした朝陽の唯一の家族が博嗣だけだからだ。
実家のある村は、年齢の近い子どもは少なく、園児から中学生まで三十人もいないくらいの田舎だった。それでも特異体質の朝陽と遊びたがる子どもは一人もおらず、朝陽はいつも博嗣が神主をしている神社か家の近くにある裏山へ行って一人で遊んでいた。
『ねえ、私も一緒に遊んでいい?』
そう言って、朝陽を気味悪がらずに遊んでくれた同じ年頃の少年を思い出す。彼は朝陽に初めて出来た友人だった。あんなに遊んでいたのに、もう顔も名前も思い出せない。何故か記憶に靄がかかっている。
「ジジイからの呼び出しか?」
「そうだ。実家に来て欲しいんだってさ」
将門はベッドから降りるなり、背後から朝陽を抱き込んだ。
「休みが取れたら数日間この家を空ける」
「俺も行く」
「行く場所は県外だし、家と神社には俺が三種類重ねた結界を張っているから、将門でも入れないと思うぞ」
「破る」
「俺の努力の結晶を無駄にしないでくれ」
「もう一度張れば良いだろ」
「簡単に言うな。大変だったんだぞアレは」
とは言え今の朝陽にならもっと精度の高い結界が張れる。実家に帰ったら精度と強度を底上げしておこうと、朝陽は思考を巡らせた。
「じいさんの事だから、またどっかの結界を直せとかそう言うのだと思う。二~三日で戻れると思うから悪いけど待っててくれ」
「そう言って現地妻ならぬ現地夫でも作るつもりだな?」
「お前俺が居ない時どんな番組見てんだよ!」
朝陽が言うと将門が喉を鳴らして笑った。
「二日で戻らんかったら、腹いせにこのアパート全棟を事故物件に変えてやる」
「どんな脅しだっ!」
本当にやりかね無いのが怖い。
体を反転させられて口付けられ、すぐに舌が潜り込んできた。
「ふ、あ……っ、あ」
将門との生活にもだいぶ慣れてきていて、体に触れられるのもキスされるのも抱かれるのも、スキンシップの一つになっていた。もう抵抗すらしなくなっている。溜まるもんは溜まるし、だからと言って、将門がいる前で自慰行為に耽ることは憚られる。
ズボンからシャツを引き出されて、横腹を撫でられた。このままだとセックスコース真っしぐらだ。
「ん、っ、あ、待て……、風呂が先だ」
「どうせ今から精液まみれになるだろう。気にならん」
「俺が気になるんだよ!」
不服そうにしながらも、将門は渋々体を離す。
朝陽が仕事に行っている間、将門は一人だ。意外と寂しがりやなのだろうか、と朝陽が検討外れの物思いに耽っている間に、将門はまたベッドに転がりはじめる。
朝陽は手早くシャワーを済ませるなり、冷蔵庫に入っている有り合わせで晩御飯を作ると食についた。
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