バームクーヘン

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帰宅した家の中は真っ暗だった。 残業して帰ってきたのに、二人の方が遅い事に違和感を覚えながら電気を点ける。 橙色の柔らかな灯りが映し出したリビングに嫌な予感を抱く。 何かが足りない気がする。 リビングを見回し気づいた。減っている。 カラーボックスの上に座らせていた夢食いバクのぬいぐるみが姿を消している。 胸騒ぎが大きくなり、迫り上がる緊張感に呼吸が早くなっていく。 それだけはやめてくれ。お願いだから。 頭の中がグルグル渦巻く。 偏頭痛を引き起こしたのか、こめかみ辺りが拳で圧縮されているようにゆっくりと痛みを帯びる。 焦る俺をさらに加速させる物が、目に飛び込む。 木目がお洒落なテーブルの上にB5サイズくらいの紙が置かれている。 罫線のないその紙には文字が綴られていた。 筆跡を見て誰が書いたのかは明らかだった。 だからなおさら恐怖した。 俺は屈み震える指先で紙を手に取る。 "水の方がちょっとだけ愛してたよ。さよなら" ガクンと、膝の力が抜ける。 冷えたフローリングと膝がくっついて体温を奪われてしまいそうな感覚になる。 「どうしよう。どうしよう」 パニックに陥り爪を噛んでしまう。 随分前に治ったはずの悪癖。 みっともないからやめななさいと君が言うから頑張って治した。 せっかく治したのに、再発してしまった。君のせいで。
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