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「…シロが始めたんじゃん」
やっとの思いで絞り出した声は風音よりも静かだった。
「ん?なに?」
「シロが始めたんじゃん!奈帆ちゃんに告って友情を終わらせたのも、選べないなら選ばなきゃいいって言ったのも、この関係を提案したのも、全部全部シロが始めたんじゃん‼︎」
生まれて初めて誰かに対して怒鳴ったから、音量の調整が上手く出来なかった。
あまりの大声に空間が歪んだ気がした。
怒鳴った勢いで涙が溢れて泣いてしまう。
25歳にもなって恥ずかしいが、勝手にポロポロ溢れてしまう。
鼻の頭が汗ばんでいるのが分かる。
泣き顔を見られたくないのと、シロがどんな表情をして俺を見下ろしているのか見たくなくて振り向けない。
背中を向けたまま鼻を啜り手の甲で涙を拭う。
「ぜーんぶ俺のせいだってか?」
はぁああ。と、深く大きな溜息を吐き俺の両肩に手を置いたシロ。
飽きるほど見てきた大きくて骨ばっている手が今は恐ろしかった。
シロの甲の中を畝る青くて太い血管が蚯蚓に見える。
世界で一番俺が嫌う生物に見えて鳥肌が立った。
ポンポンとシロの大きな手が自我を持つ生き物のように俺の肩の上を二回跳ねる。
それはこっち向け"と言う合図に思えた。
だから嫌々ゆっくりと振り返り見上げると、口元を緩ませチラッと八重歯を見せるシロがいた。
その顔はいつものシロのはずなのに別人に見えて怖い。
俺の知るシロの顔なのに中身は俺の知らないシロだと本能が怯えている。
シロの目って、こんなに黒かった?
「俺は提案しただけだ。強制じゃなかったべ?選択したのは奈帆と水と俺。三人で選択した。それを、今さら俺だけのせいにするなよ」
ハハハと乾いた声を出して笑うシロ。
言葉を出せない俺の口が餌を求める鯉のようにパクパクと動く。
そんな俺を見てシロは言う。
「俺さぁ、お前の事嫌いだったよ」
耳を疑った。
君の残した置き手紙を読んだ時以上の衝撃が脳天を突き抜ける。
白目を剥きそうになるその衝撃に思考が停止する。
嫌いって、どう言う意味だっけ?
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