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ショートする、俺の長い前髪を指で掻き分け、涙を拭ってくれたシロの真っ黒な目に暗転した俺の顔は真顔だった。
マネキンと同じ顔をしていた。
「夢から醒める時が来たんだよ。幸せな夢だったろ?もうおしまい」
「い…や…嫌だ…そんな事言わないで…」
俺の目線に合わせて膝立ちをし、背中を丸めるシロの胸元を鷲掴みにして縋る。
どうか捨てないで、行かないでと乞う事しかできない。
嫌いだと言う相手に泣きつくしか術がない。
けれどもシロは非情で、優しい顔で笑いながら俺の手を大きな手で包みながら告げる。
「お別れだ。水」
大きな大きな手は俺の冷えた手をゆっくりと自分の胸元から離させ、温もりを奪い去っていく。
行き場をなくした俺の手は溺れるように空気を掻き分けてシロへと伸びる。
その手をシロが受け止める事はなかった。
ゆっくりと立ち上がって俺を見下ろすシロ。
行き場を失ってフローリングに手を着き、四つん這いになりながらシロを見上げる俺。
予想もできなかった。
こんな悲しい光景がくる日を、1ミリたりとも考えなかった。
穏やかな笑顔のまま、シロが質問をする。
「さて、水君に質問です」
過呼吸になりそうな俺とは打って変わり、いつもの調子でいるシロが分からなかった。
ただ悲しくて、ショックで、怖かった。
「選べないなら選ばなきゃいい。俺と水二人で奈帆を抱いて愛して、奈帆は俺と水に抱かれて愛されればいい。この提案をした本当の意図はなんでしょーか?」
まるでレクリエーションのクイズ大会の司会を務めるPTA保護者のような口調でシロはそう問題を出した。
頭がぐちゃぐちゃに掻き回された俺は吐き出しそうな胸のムカつきに耐えながらシロを見つめた。
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