私が子供達を殺しました

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第15話 乳母  魔鉄を作るアトリエの両隣の店舗を買い取り、新しく開発した商品を販売する事になった。 左隣に綿織物、飾り細工の小物を販売する。 右隣に魔鉄製品の魔剣や魔防具、魔道具、今後は鋳物の鍋等も販売す予定だ。 侯爵領では輸入されて来た魔鉄が、アトリエで作られていると販売前から話題だった。 民が製品前の魔鉄自体を買う事はないのに、アトリエを覗く人が日々増えてきていた。 そこでリチャードは、魔鉄を使った商品や目新しい柄の綿織物、飾り細工をアトリエの隣で販売しようと考えたのだ。 複雑な模様も可能な綿織物は貴族や金持ちの商人からも人気で、注文が追い付いていない。 飾り細工も作るのに時間がかかる為、やはりアンドレの言う通り、シンプルな物を増やそうと話し合っている。 魔剣や魔防具は他国に売るのは危険な為、買い手にも気を遣っている。 強化魔法や防御魔法を施せる魔鉄を使った魔剣や魔防具は、人気が高く全ての買い手をチェック出来ているか心配だった。 そしてそれらの人気商品が、侯爵家が後援者としてダイバス家の当主が販売していると話題を呼んでいた。 侯爵領は豊かとまでいかないが、ブルークは優秀で若く見目美しい若者だった。 良家の娘達は以前より、花嫁の座を狙っていた。 しかし女性に興味がないのか、パーティーやお茶会に招待してもブルークから返事が来る事はなかった。 その後、コッポラ男爵家との縁組みを聞いてショックを受けていた令嬢達は、久しぶりに侯爵家の話題を聞いて悔しさを噛み締めていた。 ブルークの幼馴染みマリベラもその1人だ。 ◇◆◇  男爵の弟が遊びで付き合い責任を取らなかった女性との間に生まれた私生児の双子を引き取り、身代わりとした。 本物の双子を従者として近くで育てる為だ。 身代わりの双子が、男爵家に時々生まれるストロベリーミルク色の髪だった。 本当の子は侯爵と同じ青みがかった銀髪だったが、男爵家から来た乳母も疑わないだろう。 子供を守る為には、侯爵にも子供を取り替えた事は言えなかった。 アンリエッタが死んだ時には、事実が侯爵に伝わるように嘘が書けない魔法契約書を残した。  そして双子が生まれてしばらくして、男爵家から乳母がやって来た。 乳母と言っても実際には、クルーシェ夫人の妹で、アンリエッタの義理の叔母にあたる。 「貴族の子供は乳母が育てるものですよ。アンリエッタ様は、子供を育てた事がありませんよね」 「それは初めての子供ですから」 「子育ての経験がないのに、侯爵家の跡取りに何かあったら責任が取れるのですか」 よく考え抜かれた台詞だと思った。 どう反論していいか分からない言葉だ。 しかも相手は義母のクルーシェ夫人の妹のクレマンス夫人。 侯爵家の跡取りの安全が、安易に責任を取るなんて言える問題ではない。 ブルークも目を見開いて固まっている。 「何か勘違いしているようですが、双子を男爵家に連れて行く訳じゃありませんよ。私が侯爵家で面倒をみます」 それではまるでアンリエッタが、侯爵家に引き留めているようではないか。 「分かりました。こちらでお手伝い頂けるというお話しであれば、ブルーク様よろしいですか」 「夫人が望むのであれば、そうすればいい」 納得出来ていないブルークは、応接室を出て行ってしまった。 「そうですよ。お子さんの事は、女同士で決めなくては」 まるで母親のアンリエッタとクレマンス夫人が、同等の権利があるような言い方た。 「双子には遊び相手として、レオンとレベッカという双子の子供がいるんですが」 アンリエッタは、本当の子供であるレオンとレベッカを一緒に任せるつもりはなかった。 「そんな侯爵家と関係のない子供の面倒までは見られませんよ」 クレマンス夫人は、子供好きではないようだ。 「分かりました。それで私の双子はどうすればいいですか」 レオンとレベッカに見向きもしていない事が確認出来たので、アンリエッタは話を合わせる事にした。 「私の部屋を用意して下さい。後継者の双子の部屋ですからね。しっかりとした部屋で侍女も付けて下さい」 クレマンス夫人は豪華な部屋に侍女を侍らせて居すわる気満々のようだ。 「モリー、クレマンス夫人をお部屋に案内して差し上げて」 「かしこまりました」 偽物とはいえアルフレッドとアナベルが人質に取られているようなものだ。 けれどアンリエッタが前世の夢を見ていなければ、今奪われていたのはレオンとレベッカなのだ。 クレマンス夫人は、客人に貸す中間程度の部屋に案内してやった。 豪華な部屋だと思ったのか喜んでいた。 男爵家はどこまでも母と子を引き離しても顔色一つ変えず、目的を果たす事しか考えていない。 だったらアンリエッタも遠慮するつもりはない。 アンリエッタが破滅するか男爵家が破滅するか、子供を奪おうとした時点で共存の道は潰えた。 ◇◆◇  クレマンス夫人がアルフレッドとアナベルの面倒をみると連れて行った翌日。 「アルフレッドとアナベルに会いに行ってくるわ。レオンとレベッカの事はモリー、あなたに頼みます」 アンリエッタは偽の双子を預かったクレマンス夫人が、どんな対応をするのか確認する為にこちらから出向いて行った。 侯爵家内とはいってもレオンとレベッカはモリーに見守ってもらって、他の侍女を連れて行った。 「クレマンス夫人、部屋はどうですか」 アンリエッタは侯爵夫人の余裕を見せながら挨拶をした。 「悪くありませんね。夫人は何故わざわざ乳母の部屋に来たんですか」 クレマンス夫人は、あからさまに勝手に部屋を訪ねて来るなと言っているようだ。 「双子が侯爵様にお顔を見せに行く時間なので、教えて差し上げるべきかと思って来たのですが必要ないなら侯爵様のところへ行きます」 双子の父親であり高位貴族の侯爵でもあるブルークに会いに行く事を邪魔するならやってみて下さいな。 「何度も部屋から出て風邪をひいたらいけないので、一日一回決められた時間に会いに行きましょう」 クレマンス夫人は最初から決めてあったような口振りで、提案してきた。 「親が子供に会うのに、あなたの許可が必要だと言う事ですか」 アンリエッタはクレマンス夫人の横暴を許すつもりはなかった。 もしもこれがレオンとレベッカだったかと思うと、ブルークに申し訳が立たなかった。 「姉のクルーシェ夫人から子供達の事で文句があったら、自分の生まれとあの事をよく考えてみるように言付かりましたよ」 ビクッ まただ。 アンリエッタは何も言えなくなってしまった。 「┅┅。それでは、侯爵様が休憩をされる時間に合わせて、迎えに来るようにします。これから連れて行ってもよろしいですか」 アンリエッタは拳を握り締めながら平静を装った。 「私がお連れしますか」 クレマンス夫人が、してやったりという顔を見せた。 「結構です。レベッカをお願い」 アンリエッタは自らレオンを抱いて、侍女にレベッカを抱いて来るように指示をした。 「ふんっ」 クレマンス夫人は負けるもんかと胸を張って見送った。 「子供に会うのに、乳母の許可がいるなんて信じられません」 侍女のサビーヌは、レベッカをあやしながら文句を言った。 「ブルーク様には何も伝えずに、双子が会いに来たとだけ言うのよ」 アンリエッタは男爵家から来たクレマンス夫人が、子供達に会う許可する権利を持っている等と伝える訳にはいかなかった。
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