第1話 スライムとの出会い

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第1話 スライムとの出会い

「あっ」 草の生い茂る場所に足を置いた瞬間、そこに地面がなかった。 真っ暗な空間から一転、真っ青な空に投げ出されて、真っ逆さまに落ちる。 「うわあっ」 ガサガサズドンッ 暗転。 ◇◆◇ 木の枝に引っ掛かりながら地面に激突する。 「うっ、うっ、痛っ」 足を踏み外したのか。 「いたいの?」 子供がいるみたいだ。 心配してくれているのか。 「少しだけね」 恐がらせないように強がりを見せた。 本当は死ぬ程痛い。 「葉っぱいる?」 薬の事かな? 「あったら嬉しいな」 でも何ヵ所か骨折してそうだ。 「誰か大人の人と一緒か┅┅え?えええええ?葉っぱのはえた緑のスライム?」 目の前のスライムは姿形はゲームでよく見る横に広がる雫型だけど、綺麗な緑色で頭から葉っぱをはやしていた。 「葉っぱとって」 夢? 「ゴクリッ、葉っぱ取って、痛くないか?」 「わかんない」 「じゃあ、そっと引っ張るよ」 翼は夢の中だと思いつつ答えていた。 プチっとスライムの頭の葉っぱを抜いてみた。 「いたいの」 「ごめん、ごめん、大丈夫か」 翼は身体中痛いのも忘れて、スライムの頭を撫でようと手を伸ばした。 「痛いっいたたたっ」 「葉っぱたべる」 抜いた葉っぱを食べろと? まあ夢だしな。 「モグモグ」 おままごとみたいに、わざと効果音を出しながら、葉っぱを咀嚼する。 「あれ?痛みが消えて、凄い楽になった」 翼はその場に起き上がり、改めてスライムを見た。 翼は176センチで二の腕や背中には立派な筋肉が付き襟足に付く髪を無造作に縛って一見すると男らしい。 けれど二重でくっきりとした目とペンで描いたように細い鼻筋、艶やかな薄紅色の唇から全体に可愛らしい顔で、まだ幼さを感じさせる。 「あっ、また葉っぱはえてる。痛かったか?」 「葉っぱいたい」 「あの触ってもへいきか?」 「葉っぱいる?」 「もういいよ。ごめんな。もしかして葉っぱのお陰で怪我が治ったのかな」 翼はスライムの頭を優しく撫でた。 「葉っぱなおる」 「あれ?なんか現実っぽいんだけど、何でスライムがいるの?」 「すらいむない」 「ごめん、ごめん」 そうだ、スライムなんて種族名じゃないか。 俺に人間って呼んでるようなもんだよな。 「あの名前おしえてくれるか?俺は翼だよ」 「なまえ?」 「名前ないの?だったらお礼に名前付けてもいいかな?」 「なまえいい?」 「付けていいのかな?緑だからグリーン、葉っぱはリーフ、小さいからチビは犬じゃないんだし」 『リーフ承認しました』 え?これゲームでよく見るステータス画面だ。 【名前 リーフ 【HP 10/20 【MP 20/20 【スキル 回復 【種族 ベビーリーフスライム 「ごめん、考えている間にリーフに決定されちゃったみたいなんどけど」 「りーふ、りーふ」 「これ、気に入ったって事かな。ひとまず良かった」 HPが半分になってるのは、葉っぱを抜いたせいか? 可哀想な事しちゃったな。 「リーフ、聞きたいんだけど、ここ何処?」 「ここ?どこ?さあ?」 「ですよね~。聞いた俺がいけなかった。どう見ても赤ちゃんだし」 「あかちゃんない」 「赤ちゃんじゃないって?うんそうだね」 ベビーリーフって付いてるけどね。 「ステータスオープン」 目の前にリーフと同じ様な画面が展開された。 【名前 ツバサ 【HP 100/100 【MP 50/50 【スキル テイマー 【従魔 ベビーリーフスライム 【職業 料理人 あれ?これめっちゃ知ってるやつじゃん。 マルチ商業オンラインゲーム通称MPOG。 世界中の職業を網羅してるけど、やっぱり人気は冒険者なんだよな。 だから人気のない職業は、NPCがやってくれてるらしい。 俺は職業が選べるオンラインゲームって言うのでハマって、果実酒作りしてたっけ。 でもテイマーになった覚えはないんだけど。 って、リーフの事、勝手に従魔にしちゃってるじゃないか。 「あのリーフ、俺が名前付けたせいか従魔になっちゃったんだけど」 「じゅうま?」 「ええと、俺が契約者になったみたいで」 「けいやくしゃ?」 「う~ん┅┅分からないよな。まず呼び方は、翼君か、お兄ちゃんとか」 「?」 「俺が兄で、リーフが弟って意味。兄って分かるかな」 「アニ、いいよ」 「あれ、呼び名がアニに決まってしまったのか。まあ、いいか。よろしくなリーフ」 ◇◆◇ 「そう言えば俺のやってたゲームなら、収納オープン」 ドンッ 目の前に、大きな収納箱が出てきた。 「冷蔵庫と料理キット、果実酒の樽オープン」 ツバサの呼びかけると目の前に、冷蔵庫と料理キット、酒樽が現れた。 「リーフ料理食べれるよな?」 「りょうり?」 「ちょっと待っててな」 翼は料理キットの1つ焚き火台を設置して火をつけた。 「冷蔵庫には食材を詰め込んであるから、何を作ろうかな」 まずはルーフが赤ん坊で、どこまで食べれるか分からないからプリンから作ろう。 牛乳、卵、砂糖、生クリーム、バニラエッセンスも加えて混ぜる。 カップに入れて冷蔵庫で冷やす。 いつでも食べれるようにたくさん作っておこう。 あとは、ハンペンにチーズを乗せて鉄板で焼いておこう。 「柔らかいものって、他に何だろう?いや、普通の物がたべれるか作ってみるか」 オークの肉を薫製にしておいた厚切りベーコンを焼こう。 あと、外せないのが半熟玉子。 付け合わせに、那須を半分に切ってオリジナルのマジックソフトを振りかける。 「リーフ、君が何を食べれるか分からないから試してもらえるか?」 「たべもの?」 「そうだよ」 翼は自分で、4等分したチーズ乗せハンペンを食べてみた。 「醤油が焼けて香ばしくなって旨い」 「リーフもリーフも」 「はい、あ~んして」 「あ~ん」 パックンと翼の手ごとリーフの身体の中に入れられてしまった。 「うわあっ」 もごもごっ、ゴックン 「アニおいしい」 「美味しかったか、じゃあ、手を出すぞ」 翼は恐怖で動けなかった自分の手をリーフからそ~っと引き抜いた。 「何ともないな。俺の事は食べ物じゃないと認識してるからかな」 「あ~ん」 「もっと食べたいのか?いいぞ。でも自分で食べれるのか試してみよう」 「じぶんで?」 「このハンペンを手に取って、パクンするんだ」 翼はフォークに刺したハンペンを口に持っていった。 「こうやって手をピョーンって出してハンペンを掴む」 そもそもスライムに手なんてないからな。 「ピョーン」 リーフの身体から細長い腕のような物が飛び出した。 「出来たじゃないか」 「できた」 「手でハンペン取ってごらん」 「えい」 リーフがハンペンに腕を伸ばすとハンペンがくっついた。 「それをさっき食べたみたいに口に持っていって、パックンするんだ」 「パックン」 リーフはパックンと言いながらハンペン を口に運んだ。 「おいしい」 「チーズを乗せて醤油をかけてあるから、しょっぱさがいいんだよな」 「しょっぱさおいしい」 「そうか、美味しいか。次は厚切りベーコン焼けたから、脇の半熟卵を付けて食べるんだ」 翼はフォークで厚切りベーコンを刺して、ベーコンで半熟卵を崩してまぶした。 「あ~ん。んまい。リーフ、やってみろ」 「ビョーン、とって、たまごにして、あ~ん」 モグモグ 「アニすごい」 「この旨さかが分かるのか。どうしよう二十歳にして育児の喜びを知った」 「好きなだけ食べてていいからな」 「は~い」 従魔にしたせいか最初の頃より言葉が通じている気がする。 翼は冷蔵庫に冷やしておいたプリンを取り出して、固まっているか確認した。 「順番が逆になっちゃったけど、デザートって事で」 お皿にプリンをパカッと開けて即席で作ったカラメルをかけてリーフの前に出した。 「これいいの」 「食べていいぞ」 リーフはまた一人で、ビョーン、とって、パックンと言ってプリンを食べ始めた。 「あ~」 「どうした、どうした」 「おいしいっ」 これは初めて食べた美味しい物に感動した言葉だ。 人間も魔物も一緒なんだな。 「美味しいか。また作ってやるからな」 「うんと、うんと」 「ああ、こういう時は、嬉しいとかありがとうって言うんだ」 「ありがと」 「どういたしまして」 翼は痛くないように、葉っぱが採れてしまわないように、リーフの頭を撫でた。 それから俺達は収納箱からセーフティ機能のあるテントを出して寝る事にした。 「リーフ、おやすみ」 「アニ、おにゃすみ」 意味が分かっているのか怪しいが、おやすみの挨拶も覚えた。 うちの子、賢い。 そう言えば、俺どうしてゲームの世界に転生したんだっけ?
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