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第1話 スライムとの出会い
「あっ」
草の生い茂る場所に足を置いた瞬間、そこに地面がはなく真っ暗な空間から一転、真っ青な空に投げ出されて、真っ逆さまに落ちる。
「うわあっ」
ガサガサズドンッ
暗転。
◇◆◇
木の枝に引っ掛かりながら地面に激突する。
「うっ、うっ、痛っ」
足を踏み外したのか。
「いたいの?」
子供の声が聞こえたが、今は痛くて目が開けられない。
少し待ってくれと思いながらも、幼い子が心配してくれていると思うと、痛みにたえて目を開けるしかない。
「少しだけね」
恐がらせないように強がりをみせる。でも本当は死ぬ程痛い。
「葉っぱいる?」
薬のことかな?
「あったら嬉しいな」
でも何ヵ所か、骨折してそうだし、傷薬じゃ間に合わなそう。
「誰か大人の人と一緒か┅┅え?えええええ?葉っぱのはえた緑のスライム?」
目の前のスライムは、姿形はゲームでよく見る横に広がる雫型だけど、綺麗な緑色で頭から葉っぱをはやしている。
「葉っぱとって」
夢?
「ゴクリッ、葉っぱ取って、痛くないか?」
「わかんない」
「じゃあ、そっと引っ張るよ」
翼は夢の中だと思いつつ答えてしまう。
プチっとスライムの頭の葉っぱを抜いてみた。
「いたいの」
「ごめん、ごめん、大丈夫か」
翼は身体中痛いのも忘れて、スライムの頭を撫でようと手を伸ばす。
「痛いっいたたたっ」
腕は打撲かもしれないが、動かすと凄く痛くて、強がりも言えない。
「葉っぱたべる」
抜いた葉っぱを食べろと?
まあ夢だしな。痛いけど、夢┅┅だよな?
「モグモグ」
おままごとみたいに、わざと効果音を出しながら、葉っぱを咀嚼する。
「あれ?痛みが消えて、凄い楽になった」
翼はその場に起き上がり、改めてスライムを見た。
「もしかして、スライムの葉っぱには万病に効く効果があったりして?」
両手を開いて握る動作を繰り返してみる。
「ハハハ、やっぱり治ってないか。俺ってやつは、まだ諦めきれてなかったのか」
生まれた頃から付き合っている左手の軽い障害が、スライムの葉っぱで治ったのではないかと思ったが、握り拳は作れないし指の動きもぎこちないままだ。
翼は身長176センチで、二の腕や背中には立派な筋肉が付きエリアシに付く髪を無造作に縛っていて、一見すると男らしい。
けれど二重でくっきりとした目とペンで描いたように細い鼻筋、艶やかな薄紅色の唇から全体に可愛らしい顔で、まだ幼さを感じさせる。
「あっ、また葉っぱはえてる。痛かったか?」
「葉っぱいたい」
「あの触ってもへいきか?」
「葉っぱいる?」
「もういいよ。ごめんな。葉っぱのお陰で、怪我が治ったんだよな」
翼はスライムの頭を優しく撫でる。ポワンと柔らかくて、可愛い。
「葉っぱなおる」
「あれ?なんか現実っぽいんだけど、何でスライムがいるの?」
「すらいむない」
「ごめん、ごめん」
そうだ、スライムなんて種族名じゃないか。俺に人間って呼んでるようなもんだよな。
「あの名前教えてくれるか?俺は翼だよ」
「なまえ?なに?」
「名前ないの?だったらお礼に名前付けてもいいかな?」
「なまえいい?」
「付けていいのかな?緑だからグリーン、葉っぱはリーフ、小さいからチビは犬じゃないんだし」
『リーフ承認しました』
え?これゲームでよく見るステータス画面だ。
【名前 リーフ
【HP 10/20
【MP 20/20
【スキル 回復
【種族 ベビーリーフスライム
「ごめん。考えている間に、リーフに決定されちゃったみたいなんだけど」
「りーふ、りーふ」
リーフは名前が気に入ったのか、その場で何度もポーン、ポーンと50センチほど飛び上がった。
「これ、気に入ったってことかな。ひとまず良かった」
HPが半分になってるのは、葉っぱを抜いたせいか?
可哀想なことしちゃったな。
「リーフ、聞きたいんだけど、ここ何処?」
「ここ?どこ?さあ?」
「ですよね~。聞いた俺がいけなかった。どう見ても赤ちゃんだし」
「あかちゃんない」
「赤ちゃんじゃないって?うんそうだね」
ベビーリーフって付いてるけどね。
「ステータスオープン」
目の前にリーフのステータス画面と同じ様な画面が展開される。
【名前 ツバサ
【HP 100/100
【MP 50/50
【スキル テイマー
【従魔 ベビーリーフスライム
【職業 料理人
あれ?これめっちゃ知ってるやつじゃん。
マルチ商業オンラインゲームMMORPG。
世界中の職業を網羅してるけど、やっぱり人気は冒険者なんだよな。
勇者や剣聖が山ほどいるんだから、笑っちゃうよ。
だから人気のない職業は、NPCがやってくれているらしい。
俺は職業が選べるオンラインゲームって言うのでハマって、左手の障害も関係ないから料理作りと果実酒作りしてたっけ。
でもテイマーになった覚えはないんだけど。って、リーフのこと勝手に従魔にしちゃってるじゃないか。
「あのリーフ、俺が名前付けたせいか、従魔になっちゃったんだけど」
「じゅうま?」
「ええと、俺が契約者になったみたいで」
「けいやくしゃ?」
「う~ん┅┅分からないよな。まず呼び方は、翼君か、お兄ちゃんとか」
「?」
「俺が兄で、リーフが弟って意味。兄って分かるかな」
「アニ、いい」
「あれ、呼び名がアニに決まってしまったのか。まあ、いいか。よろしくなリーフ」
◇◆◇
「そう言えば俺のやってたゲームなら、収納オープン」
ドンッ
何もなかった空間に、大きな収納箱が出現する。
「冷蔵庫と料理キット、果実酒の樽、全オープン」
ツバサが呼びかけると目の前に、冷蔵庫と料理キット、酒樽が現れる。
「リーフ料理食べれるよな?」
「りょうり?」
「ご飯だよ。ちょっと待っててな」
「あい」
翼は料理キットの1つ、焚き火台を設置して火をつけておく。
「冷蔵庫には食材を詰め込んであるから、何を作ろうかな」
まずはルーフが赤ん坊で、どこまで食べれるか分からないからプリンから作ろう。
牛乳、卵、砂糖、生クリーム、バニラエッセンスも加えて混ぜる。
カップに入れて冷蔵庫で冷やす。
いつでも食べれるようにたくさん作っておこう。
あとは、ハンペンにチーズを乗せて、鉄板で焼いておく。
「柔らかいものって、他に何があるかな?いや、普通の物が食べれるか作ってみるか」
オークの肉を薫製にしておいた厚切りベーコンを焼こう。
あと、外せないのが半熟玉子。
付け合わせに、那須を半分に切ってオリジナルのマジックソルトを振りかける。
「リーフ、君が何を食べれるか分からないから試してもらえるか?」
「たべもの?」
「そうだよ」
翼は自分で、4等分したチーズ乗せハンペンを食べてみせる。
「醤油が焼けて香ばしくなって旨い」
「リーフもリーフも」
「はい、あ~んして」
「あ~ん」
パックンと翼の手ごとリーフの身体の中に入れられてしまった。
「うわあっ」
もごもごっ、ゴックン
「アニおいしい」
「美味しかったか、じゃあ、手を出すぞ」
翼は恐怖で動けなかった自分の手を、リーフからそ~っと引き抜いた。
「何ともないな。俺のことは食べ物じゃないと認識してるからかな」
「あ~ん」
「もっと食べたいのか?いいぞ。でも自分で食べれるのか試してみようか」
「じぶうで?」
「このハンペンを手に取って、パクンするんだ」
翼はフォークに刺したハンペンを、口に持っていく仕草をみせる。
「こうやって手をピョーンって出してハンペンをつかむ」
そもそもスライムに手なんてないからな。
「ピョーン」
リーフの身体から、細長い腕のような物が飛び出す。
「出来たじゃないか」
「できたの」
「手でハンペン取ってごらん」
「えい」
リーフがハンペンに腕を伸ばすとハンペンがくっついた。
「それをさっき食べたみたいに口に持っていって、パックンするんだ」
「パックン」
リーフはパックンと言いながらハンペンを口に運ぶ。
「おいしの」
「チーズを乗せて醤油をかけてあるから、しょっぱさがいいんだよな」
「しょっぱおいしの」
「そうか、おいしいか。次は厚切りベーコン焼けたから、脇の半熟卵を付けて食べるんだ」
翼はフォークで厚切りベーコンを刺して、ベーコンで半熟卵を崩してまぶしてみせる。
「あ~ん。んまい。リーフ、やってみろ」
「ビョーン、とって、あ~ん」
モグモグ
「しゅごいの」
「この旨さかが分かるのか。どうしよう二十歳にして育児の喜びを知ってしまった」
「好きなだけ食べてていいからな」
「あい」
従魔にしたせいか、最初の頃より言葉が通じている気がする。
翼は冷蔵庫に冷やしておいたプリンを取り出して、固まっているか確認する。
「最初に食べさせるつもりだったのにな。まあデザートってことで」
お皿にプリンをパカッと開けて、即席で作ったカラメルをかけてリーフの前に出してやる。
「食べていいぞ」
リーフはまた一人で、ビョーン、とって、パックンと言ってプリンを食べ始める。
「あ~」
「どうした、どうした」
「おいしの」
初めて食べた美味しい物に感動した様子なのか、リーフの口元が緩んでるぞ。
人間も魔物も一緒なんだな。
「美味しいか。また作ってやるからな」
「うんと、うんと」
「ああ、こういう時は、嬉しいとか、ありがとうって言うんだ」
「ありあと」
「どういたしまして」
翼は痛くないように、葉っぱがとれてしまわないように、リーフの頭を撫でてやる。
それから俺たちは、収納箱からセーフティ機能のあるテントを出して寝ることにした。
「リーフ、おやすみ」
「アニ、おにゃすみ」
意味が分かっているのか怪しいが、おやすみの挨拶も覚えたようだ。
うちの子、賢い。
そう言えば、俺どうしてゲームの世界に転生したんだっけ?
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