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第11話 果物100個
凄い魔物ばかり狩ってくるユキのお陰で、包丁がボロボロになった翼は、新しい包丁を買いに街中へ出掛ける事にした。
「ユキ、お前はデカクて目立つから宿にいてくれよ」
「むむむ」
街では大きなユキは驚かれてしまうので、宿で待っているように言っただけなのに、悲しそうな顔をされてしまう。
「ユキちゃんいじめた」
さらにリーフにまで責められてしまう。
何も悪い事してないのに理不尽だ。
「じゃあ、リーフもユキと一緒にお留守番してやってくれ」
「え~~~」
今、ユキを庇ったくせに一緒に留守番は嫌らしい。
「いい子で留守番してくれたら、土産に美味しいもの買ってきてやる」
「は~い」
「うむ」
ユキ、お前もか。
◇◆◇
宿屋の裏の大通りに戻って、包丁が手に入りそうな店を探した。
道具屋の看板を見付けたので入ってみる。
「ワイバーン等の頑丈な肉が切れる包丁を探しているんだが」
「冷やかしだろ。買う気がないなら帰れ」
背中を押されて店を追い出されてしまった。
ワイバーンを討伐出来る冒険者には見えなかったのだろう。
実際に狩るのはユキだし、店の主の眼力は間違っていない。
もう一度、店に入るといい加減にしろと店主に睨まれる。
「どんな肉を切ってるか見せるから、待ってくれ。ほら、これだ」
仕方がないので、背中のマジックリュックを下ろして、残っていた魔毒ベアの肉を見せると納得してくれた。
「これはお客さん、すまなかった。まさかワイバーンや魔毒ベアを狩るようには┅┅」
最後は気を使われたのかモゴモゴ言って聞き取れなかったが、言いたい事は伝わった。
とにかく魔毒ベアの皮は分厚くて、普通の包丁では刃が通らないのだ。
「コホンッ。それならダンジョンに行って魔氷サイを狩って角を持ってくれば、頑丈な包丁を何本も作れますよ」
ワイバーンや魔毒ベアを解体出来る包丁を作るには、それらの魔物の骨皮より頑丈な材料が必要だと言われた。
「分かりました。魔氷サイですね」
魔氷サイの生息圏を聞いて道具店を後にした。
宿屋に戻って説明すると、一番近くで魔氷サイがいるのは森の中央付近に古くからあるダンジョンで、魔氷サイは食べた事がないと言われた。
食べたかどうかは聞いてないんだけど。
「調理してやるから、狩ってきてくれないか」
翼は手っ取り早くユキに頼めば、一発で解決出来ると思っていた。
「そなたも、一緒にダンジョンに行くのだ」
「何でだよ。いつもみたいに狩ってきてくれればいいだろ」
「この世界は隣国といざこざが絶えない。魔物もいる。少しは闘いに慣れておくべきだ」
ユキの言う事は間違っていないのだが、現代社会で生きてきた翼にとって命のやりとりは荷が重かった。
例えそれが魔物だとしても┅┅。
「分かった。でも俺は絶対に戦わないからな。あとリーフはお留守番な」
「や、おるすばんやっ」
ああっ、やっぱり。
さっき留守番させたばかりだから、嫌がると思ってたんだ。
「リーフ、これから行く所はとっても危ない」
「やあの」
両腕を出してブルブル振るう事を覚えた。
可愛い┅┅そうじゃなくて。
「分かった。リーフは、俺から離れるなよ」
「アニにピタ」
リーフが翼にピッタリと体を張り付けた。
くうっ、可愛い。
「ユキ、案内してくれ」
「日が暮れる前に帰りたければ、我の背中に乗るのだ」
ユキの言う通り、背中に乗って行く事にした。
おおっ、風に吹かれて気持ちがいいな。
ぴょ~ん
っ、待って、待って。
「ユキ、ストップ」
翼が鬣を引っ張って、大声でユキを止める。
「何なのだ」
「引き返してくれ。リーフが落ちた」
ユキの物凄いスピードで風圧に巻き込まれて、リーフが後ろに飛ばされて落ちてしまった。
「うむ」
ユキはUターンして、急いで来た道を戻った。
「いた。リーフ大丈夫か」
翼はユキから飛び降りて、リーフを抱え上げた。
「びくりした」
「ジャケットの前を留めるから、中に入れるか?」
「はーい」
「少し圧迫されるけど、苦しくないか」
「い~の」
「じゃあ、出発するか」
ユキに跨がり合図した。
「うむ」
直ぐに森の中央にあるダンジョンに到着した。
「さあ、行くぞ」
ユキが当たり前のように、翼を連れてダンジョンに入ろうとした。
「いやいや、俺は行かないよ」
ダンジョンの中になんて絶対に行かない。
本当に、絶対に、どうしても嫌だ嫌だ。
ダンジョンまで着いてこいってダンジョンの外までじゃないの?
ユキが鼻先で前に進めと翼の背中を押してくる。
「い~や~だ~」
翼が子供のように嫌だと足を突っ張っていると、それを見ていたリーフも騒ぎ出した。
「リーフもいやあの。いやいや」
どうやら翼の真似をしているようだ。
「そなた、リーフは魔物なのだぞ」
「はい、そうですね」
「そなたのように、ダンジョンを怖がる魔物に育てるつもりか」
ユキにこんなまともな事を言われては、翼も抵抗する手段が見付からない。
「え~え~、行きますよ。でも、でもユキ様の背中に乗せてって下さい」
「うむ。さっさと乗れ」
それからのユキは素早いスピードでダンジョンを駆け抜けて、魔物を狩っていった。
だが、翼は目をつぶっていたので、戦っている音しか聞いていない。
ガッとか、ギャーとか、でも何故かそれを見ていたリーフが「キャーノ、キャーノ」と、楽しそうにしていたのだけは覚えている。
道具店の店主が教えてくれた魔氷サイは、角が巨大で確かに何本も包丁が取れそうだ。
しかもなかなか手強くて、他の瞬殺された魔物よりは時間がかかった。
しかしユキが飛びかかり首と頭を噛み砕くと、目玉がビョーンと飛び出して絶命した。
「倒したぞ」
ユキが噛み付いていたアゴを外して、闘いが終わった事を告げると翼も目を開いた。
そして次の瞬間、魔氷サイは支える物を無くしたようにドタッっと大きな音を立てて倒れた。
「やっと終わった」
翼は長き闘いに終止符を打つように、ため息をついた。
「そなた何もしていなかろう」
「おっしゃる通りです」
「おしゃしゃしゃす」
リーフが翼の真似をしようとして、上手く話せなかったようだ。
そんな言葉は、真似しないでいいから。
翼達は魔氷サイを背中のマジックリュックに収容して、帰りには他の魔物も収納して街に戻った。
「戻りました」
翼はその足で、道具店に向かい包丁を頼みにいった。
「戻りましたって、ダンジョンの場所でも確認に来たのかい」
「いえ、魔氷サイを持って帰りました」
「まさか、こんな短時間で?別の角を狩ってきたんじゃないのか」
「そんな自分の包丁を作ってもらうのに嘘なんて付きませんよ」
「だがいくらなんでも、早すぎる」
何故か疑われたので店内に魔氷サイを出すと、店内がぎゅうぎゅう詰めになってしまった。
「うわあっ、分かったから、信じるから閉まってくれ」
翼は魔氷サイをマジックリュックに閉まって、改めて店の後ろにある庭に魔氷サイを出し直した。
道具屋の主は魔氷サイなんて大物を狩って帰ってくるには、あまりに早すぎると驚いていた。
まあ、ユキが狩ったんだけどな。
「包丁が出来るまで、3日かかるよ。あと肉や皮、魔石の買い取りも出来るけど、どうするね?」
「肉は食べるので、それ以外は買い取って欲しいです」
「用途別に全部包丁にするなら、10本で5万にマケとくよ。その他の買い取りが30万ってところだからそれで良ければ25万ゼニスお返しするよ」
「用途別にお願いします。包丁を買ってお金が返ってくるなんて、頑張ってダンジョンに潜った甲斐があります」
翼の言葉にユキから冷たい視線が送られる。
「ごほんっ、じゃあ、そう言う事でお願いします」
「よし、25万ゼニスだよ。包丁は3日後に取りに来てくれ」
道具店の店主から25万ゼニスを受け取って店を出た。
翼は、街中を歩いて、珍しい果物がないか探し歩いた。
街中を歩いていたら、翼の顔がパアッと明るくなって、目が一瞬で輝いた。
あれは現実世界では珍しくなかったのに、こちらでは見かけないザクロじゃないか。
こちらの世界のお酒と言えば麦芽酒が中心で、果物も赤リンゴや青リンゴが多い。
だからリンゴ以外の果物を見つけたら、速攻買い占めたくなる。
「あの、そのザクロおいくらですか?」
「ひと山5個で2000ゼニスだよ」
う~ん、こちらの世界の通貨は、現実世界と同じか少し安い位だから1個400円弱か。
ちょっと高いけど、果物はもともと高めなんだ。
空間収納冷蔵庫に入れておけば腐らないし、まとめ買いするか。
魔氷サイも角と肉以外の素材を道具屋で高く買ってくれたから、今は懐もあたたかい。
「じゃあ、100個下さい」
「ひゃ、100個?はい、ただいま」
果物屋の店主が、客の気が変わらない内にとばかりに紙袋にザクロを詰め込み始めた。
「わあっ、パッパッパッ」
凄い早業に感動したのか、リーフが腕を出して右に左に店主の早業の真似を始めた。
「お客さん、たくさん買ってくれたから、これサービスだよ」
果物屋が紙袋に何かオマケを入れてくれた。
「ありがとう。じゃあ、これお代ね」
地球での買い物もそうだったが、オマケほど嬉しい物はないな。
後でオマケを見てみよう。
翼はユキを引き連れて、夕飯の買い出しを始めた。
屋台に出ていたノーマルなパンを30個買うと、近くにチーズ専門店を発見した。
「今日はチーズをいっぱい買って、チーズホンデュならぬチーズがけでも作ってみるか」
まあ、僕はチーズホンデュで食べるけどね。
「チーズとはあのミルクを煮詰めたやつか。悪くないぞ」
「リーフわるくない」
「ユキの言葉遣いを真似するなって言っただろう。悪くないじゃなくて、好きって言うんだ」
「リーフすき」
「チーズ好きか。なら、いっぱいかけてやるからな」
翼の言葉にユキから冷たい視線が注がれる。
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